まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

子ひつじは迷わない うつるひつじが4ひき

ストーリー
夏休み。真一郎と佐々原は、会長に連れられ、一緒に泊まりこみバイトへとやってきた。
仕事場所は、“万鏡館”という名前とは裏腹に一切鏡がなく、中も外も全て白と黒で統一された不思議な館。
一行はそこで、怪しげな美貌をたたえた館の主人と、同じバイトに居合わせたらしい仙波に出会う……。



4巻目にして初の長編です。山の奥の不気味な館。陸の孤島
いかにもミステリーっぽいシチュエーションですが、さすがにこの作品で殺人事件は起こりませんでした。
代わりに仙波たちが解いていくのは、謎めいた館の主人の一族の秘密。
今までの、良くも悪くも淡々とした日常からはがらりと変わった雰囲気で、少々オカルトじみた部分もあり、何度も背筋に冷たいものが走りました。
ノリがあまりに独特なので、長編だけれど、番外編みたいな印象。でも、これはこれで楽しい。新境地開拓という感じ。


まず、仙波と真一郎が長い間ずっと一緒にいるという環境が新鮮でした。
とはいえ、相変わらず仙波には毛嫌いされっぱなしの真一郎。
およそ自業自得とはいえ、想い人にここまで邪険にされ続ける姿を見ていると、少々不憫に思えてきます。
それでも諦めずに近づき続けられるところが真一郎の凄いところでもあり、嫌われる理由でもあり。
帯には「仙波がついに『デレ』る!?」なんて書いてありましたが、さて、これをデレているとみなすかどうかは、意見の分かれるところです。
少なくとも、慣れない環境の中で、今までに見せなかった顔を見せてくれたことは確かですけれども。
なかなか分かりやすくデレてくれませんねえ。でもそこがいい。特に真一郎には毒舌メッタ打ちくらいの方がちょうどいい。
一方の佐々原さんも、不可思議な館に囚われて情緒不安定気味。
いつもながら、不器用な生き方をしているなあと思いますが、真一郎や仙波と関わって変わってきた部分もあるようで何よりです。
可愛らしさという点では仙波に負けずとも劣らない彼女ですが、ここにきて会長までちょっと怪しい感じになってきて、なんというか、恋する女の子も大変だなあ。
そうそう、仙波と佐々原さんのやりとりはとても良かったですね。自虐気味の仙波に対して、珍しく自分を前面に出して言い返す佐々原さんが素敵。和む。
ゲストキャラの寄絃芳花さんがまたいいキャラでした。初対面で仙波を困惑させるほどのミステリアスさが実に魅力的。
館やしきたりといった舞台装置も手伝って、この人なら本当に怪奇現象を起こしてしまいそうだと思わせる力がありますね。
そんな特異な彼女と、何の気兼ねもなく付き合えるサトウは、実は登場人物の中で一番の大物なのかもしれません。


油断していたこともあり、思いっきりぞくぞくさせられました。特に終盤、某場面では読みながら思わず毛布をたぐりよせてしまったくらいです。
いい意味で予想を裏切ってくれたというか、いつもとは違う楽しみ方ができたので、たまにはこういうのもいいですね。またやってほしいな。
次は学校に戻って文化祭編のようです。どんな謎が舞い込んで来るのか、今から楽しみ。


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