まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『やがて恋するヴィヴィ・レイン6』感想

やがて恋するヴィヴィ・レイン (6) (ガガガ文庫)

ストーリー
史上最大の会戦に勝利したジェミニ率いる帝国軍はバール川を越え、共和国領への侵攻を開始した。撤退する共和国軍の直上を飛行する戦艦バルバロッサに乗り合わせたファニアは「尋ねびと」に巡り会い、魔女の口から「星の意志」を伝え聞く。動きはじめる二機の熾天使級機械兵。エデン飛行艦隊に攻撃を開始するジュデッカ皇帝ヒルガルダ。そしてついに全貌を明らかにするワールド・トリガー。群雄たちの思惑が交叉するなかジュデッカに堕ちたルカとミズキの運命は!? 犬村小六が贈る壮大な生命のドラマが、いよいよクライマックス!

グレイスランド、エデン、ジュデッカに分かたれた世界の秘密が明かされる、クライマックス一歩手前のシリーズ第6弾。
遂にヴィヴィ・レインが登場! 彼女のことも含め、これまで散りばめられてきた色々な謎が一気に明らかになっていくのが楽しくてぐいぐい読んでしまった。
それにしても、1巻の頃から考えるとずいぶんスケールのでかい話になってきたもんです。文字通り、世界を変えてしまうような。


ジュデッカに降り立ったルカとミズキ。エデンの戦艦の中で目覚めたヴィヴィと、偶然乗り合わせたファニア。運命の4人が集うとき、世界もまた生まれ変わる……。うーん、ロマンだなあ!
いやね、僕はわりと、ファンタジー世界に隠された成り立ちの秘密! とか、この世界の真相! とか、そういう展開はあんまり好きじゃない方なんです。なぜかというと、これまで主人公の身の回りだけで動いていたストーリーが、一足飛びに世界の創世が云々、という話になってもわりと「どうでもいいから、もっと地に足つけた話やってくれ」という思いにしかならないからなんですが。
でもこの作品の場合、ルカたちがやってきたことが徐々にスケールアップしていって、あくまで地続きに「世界を動かす」というところまでたどり着いた感があって、素直にお話のスケールの大きさに感嘆できます。この丁寧な風呂敷の広げ方は、さすがの犬村小六だなあと思わざるをえません。


念願の再会と、邂逅。そして世界の命運は4人の手に委ねられる。
ルカとファニアの微笑ましい恋にはやっぱりニヤニヤしてしまうけれど、世界のため、人々のためにそれぞれが選ぶ手段は正反対のもので、たとえ相手が愛するひとであっても、どちらも譲ろうとはしない。それがとてもルカらしく、またファニアらしいところであり、魅力だ。
互いを想いあいながらの別れ。いっそこのまま二人きりで、という衝動と戦いつつ、それぞれの使命のために離れるその姿がとても切なく美しい。悲恋だなあ……。
また、ルカとともに「トリガー」を握る運命の女・ヴィヴィ。彼女の中に眠る子のことを思うと、ある意味ファニア以上に、ルカとの出会いの場面ではぐっとくるものがありました。
最終巻では、作品タイトルの意味がきっと明かされることでしょう。ここから始まる「恋」の予感に、なんだか無性にドキドキしてしまいますね。
世界の変革、最後まで見届けたいと思います。


グレゴリオさん制服フェチだったのか(いい趣味してるね!)。

『やがて恋するヴィヴィ・レイン5』感想

やがて恋するヴィヴィ・レイン (5) (ガガガ文庫)

ストーリー
「何百万人死傷しようがかまわない。おれはファニアのために世界を焼く」。史上最大の軍勢を率い、すさまじい勢いで進撃するルカはいつしか「災厄の魔王」と呼ばれ、世界そのものを敵に回していた。自由と平等を否定し、武力による変革を断行するルカに、ルナ・シエラ共和国第二執政カミーユは反旗を翻すことを決断する。一方、限られた生命を生きるアステルには「そのとき」が迫り――「あの歌が、あたしがあんたのそばにいるって教えてくれるよ」。いよいよ舞台が大きく動き出す激動と感動、恋と会戦の物語、第五巻……!

ぎゃー! ちょっと読むのをサボっているうちに最終巻が刊行されてしまったー! ということで遅ればせながら5巻読みました。
いや正直この表紙から嫌な予感しかしないじゃないですか。だから読むのをためらっちゃったというのもあるんですけど。アステルって本当にいいヒロインなので、当初から予告されていた瞬間とはいえ、やっぱり辛いものは辛い。
ルカにとっても過去最大級の挫折の巻で、読んでいてなかなか苦しいものがありましたが……ラストの展開はなかなか爽快でした。ここからが巻き返しの時間だ。


ジェミニに攫われたファニアを救い出す。ただそのためだけに共和国全国民を騙し、周辺国家を次々に攻め落とし、帝国との史上最大の決戦に望む災厄の魔王・ルカ。
たったひとりの最愛の人を救うべく世界を戦乱の渦に叩き込む。響きはロマンチックだけれども、やっていることは間違いなく巨悪です。
主人公としてはまあね、格好良いと言えなくもないけれども、それにしたってファニアが連れ去られてからのルカはどうもおかしい。戦争と仕事の鬼になって、ロクにアステルの相手もしてくれないし、良くも悪くも少年らしかったあの頃のルカはどこへといった感じで、見ていて悲しくなってしまいます。
アステルには、時間もあまり残されていないというのに……。それをルカに隠して、精一杯明るく無邪気にふるまうアステルが切ない。


ルカとジェミニ。2人の覇王が雌雄を決する天下分け目の戦い。ここまで怒涛の勢いで敵軍を蹴散らしてきたルカたちが、今回も得意の分進合撃で帝国へと攻め入っていく。でもやっぱり、ジェミニはそうやすやすと敗北するような男ではなかった。
いやー、ぶっちゃけこうなるのは予想できていたというか、最初からフラグ立ちまくりだったもんなあ。それにしてもジェミニの奴は、ほんと嫌な野郎ですわ。やり口がもう。えげつない。そしてそんな辛い戦いの中でも、人一倍輝きを放つ男がひとり。いい生き様でした。
終盤の主人公はアステルでしたね! 残りわずかな時間を、ルカと一緒に過ごすために、ルカを生かすために、使い尽くす。適当なやりとりばっかりしているようで、実は誰よりも相棒・ルカのことを思っている彼女。そしてルカもまた。7年間ずっと隣にいた、誰よりも深くお互いを知るふたり。
だからこそ、こういった鮮烈な結末を迎えることになったのかもしれない。落ちるところまで落ちたけれど、希望の炎はまだ潰えていない。ここからが本番。最終巻まで一気に駆け抜けてしまおう。


エロイサさんみたいなキャラクターは結構好き。いいように操られたい。

『異セカイ系』感想

異セカイ系 (講談社タイガ)

ストーリー
小説投稿サイトでトップ10にランクインしたおれは「死にたい」と思うことで、自分の書いた小説世界に入れることに気がついた。小説通り悪の黒騎士に愛する姫の母が殺され、大冒険の旅に……♪ってボケェ!! 作者が姫を不幸にし主人公が救う自己満足。書き直さな! 現実でも異世界でも全員が幸せになる方法を探すんや! あれ、何これ。「作者への挑戦状」って……これ、ミステリなん?

異セカイの中心で愛を叫ぶ
第58回メフィスト賞受賞作品。そこかしこで話題に上っているのを見かけたので読んでみたのですが、こりゃ確かに凄い本だわ……!
ネット小説作家の主人公が自分の書いた物語の世界に入ってしまう……という異世界転生っぽい出だしから、作者と物語世界と現実世界とキャラクターとが目まぐるしく入れ替わるメタフィクショナルなセカイ系へと怒涛の勢いでなだれ込んでいく。かなり構えて読み始めたにもかかわらず、いったい何度度肝を抜かれたことか。いやマジで、どエラいもんを読んだ。
関西弁一人称の語り口がめちゃくちゃアクが強くて正直読者は選びそう……でも慣れるとこれがまたクセになってくるんだなあ。


小説投稿サイトでトップ10にランクインした主人公は、自分が書いているファンタジーな物語世界のお話の主人公として突然入り込んでしまう。
でもいわゆる異世界召喚系と違うのは、あっさり元の世界に戻れてしまうこと。そしてあくまでベースは彼の書いた小説であるから、その世界を自分の好きなように書き換えることができてしまうこと。
そして、ランキングがトップ10から外れてしまったらその世界が失われてしまうこと。
なぜ自分の書いた小説世界がそんな風に生み出されてしまったのか分からぬまま、でも明らかにもう一つの現実であるその世界を消してしまうわけにもいかず、自らの生み出した世界を守るために主人公が必死に策を練る第1章。
1章終了時点で立派なメタフィクションが成立していて(ネタバレ防止の為詳しくは書かない)、既にかなりの満足感があったのだけれど、なんとまだ第2章と第3章が待ち構えているのだ! ぎゃあ!


語り手たる主人公は、口調はがさつだし元ニートで現フリーターのわりとダメ人間だし風貌もパッとしない男だけれども、作中の誰よりも「いい奴」である。
自分が生んだキャラクターを現実世界の人間と同じように扱い、愛し、全力で守ろうとする。それは自分の世界のものだけでなく、他者が生んだキャラクターや世界も同様にする。常に自分に対して批判的であり、非常に真摯に倫理的であろうとする。なんて知的で愛に満ちた主人公だろう!
作者であるから、キャラクターの気持ちを決めてしまう。それは小説を書く上で当たり前すぎることで、でもその物語が現実になってしまう今、作者の都合でキャラクターの意見を変えてしまうことは、正しいことなのか? そんな風に当たり前を疑うことのできる主人公は、本当に素敵な男だ。
作者たる主人公に突きつけられる「作者への挑戦状」。物語世界だけでなく、現実世界にまで波及していく書き換えの問題。そして表面化していく、ハーレムエンドは正当化できるのか、という問い。なんじゃそりゃ、と思われるかもしれないけれど、まさにそのハーレムエンドの問題が、この物語の最大の謎に大きく絡んでくるのだから恐ろしい。
終盤はただただ呆気にとられるばかりでした……。僕は正直セカイ系に詳しくないし、それがなんなのかいまいち分かってないんですが、これがそういうもんなんですか? すげーなセカイ系。頭がぐっちゃぐちゃになっちゃうよ。
そのくせ、ラストに主人公から語られる読者へのメッセージはやたら綺麗なもので、これだけやりたい放題やっておいてラストがこれかよと、いっそ笑ってしまう。でもこの主人公に言われるなら乗っかってやろうかな、という気持ちにさせられる。まったく大したもんである。


僕は井上妖精さん派!