まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『むすぶと本。 『外科室』の一途』感想

むすぶと本。 『外科室』の一途 (ファミ通文庫)

ストーリー
本は読み手を、深く愛している。
本の声が聞こえる少年・榎木むすぶ。とある駅の貸本コーナーで出会った1冊の児童書は“ハナちゃんのところに帰らないと”と切羽詰まった声で訴えていた。恋人の夜長姫(=本)に激しく嫉妬され、学園の王子様・姫倉先輩の依頼を解決しながら、“ハナちゃん”を探し当てるのだけれど……。健気な本たちの想いを、むすぶは叶えることができるのか!? 泉鏡花作品をモチーフにした表題作のほか、“本の味方!”榎木むすぶがさまざまな人と本の問題を解決する学園ビブリオミステリー登場!

想いは本と人とを“むすぶ”
野村美月×竹岡美穂、待望の新作。まさか、またこの学園を舞台にした物語が読めるとは思っていなかったので、ただただ感慨深い気持ちでいっぱいです。刊行されてから読むまでにしばらくかかったのは、なんだか読むのがためらわれて、つい寝かせてしまったからです。
本と言葉を交わすことのできる少年が、恋人の本に嫉妬されながらも出会った本たちの願いを届けていく今作は、本への愛情がたっぷり詰まった、野村先生らしい作品に仕上がっていました。
たおやかでやさしい文章にうっとりしていたら、人の少しどろりとした部分がさらっと描かれたりして、読者をどきりとさせてくれる。ああ、これぞ野村美月。おかえりなさい。


本の声を聞くことのできる主人公・むすぶ。その恋人はなんと本! これまで色々な形の女の子を描いてきた野村先生ですが、このパターンは新しい……。
その彼女・夜長姫は、むすぶが他の本を読もうとするだけで嫉妬でいっぱいになって呪詛の言葉を吐きつづけるくらいのやきもち焼きなのだけれど、一方でときどきまっすぐにむすぶに甘えてきて、一緒にお風呂に入ろうなんて言ってみたり(!?)するところが本当に可愛らしい女の子(本)。いやあ、可愛い……可愛いよ、このヒロイン。どんなヒロインも魅力的にしまえるんだもの、ずるいよなあ。
一方、第一話で登場した人間のヒロイン・妻科さんもとてもいい! 彼女はやわらかなツンデレという印象で、過去作のヒロインたちの系譜を感じる子ですね。今のところ、個人的には(本であるか人であるかは関係なく)妻科さんの方を応援したくなってしまうのですが、夜長姫とむすぶとの馴れ初めもまだ語られていないので、夜長姫が本領発揮してくるのはこれからなのかなとも思っています。何よりむすぶ自身は、夜長姫にぞっこんですしね……。


かつて読んでくれた大好きな女の子に再会したいという『長くつ下のピッピ』。なかなか売れないライトノベル作家を応援する、彼の書いた『異世界湯けむり☆うふふ大戦』。今にも冒険に飛び出したい『十五少年漂流記』。
本と人にまつわるエピソードの数々は、切なくてきゅっとするお話、前向きで元気の出るお話、ギャグ多めのひたすら楽しいお話と、多種多様。
ああ、面白いなあ、楽しいなあなんて油断していると、人が隠してきた情念や恐ろしい激情を暴くお話が不意に挟まれる。そのギャップが破壊力を生みだす。いやはや、ただただ脱帽です。
一押しは、うーん、『ピッピ』も捨てがたいけれど、やはり表題作の『外科室』でしょうか。ちょっとしたミステリーがあり、題材の本と絡めながら秘められた思いを紐解いていく、まさに野村美月の真骨頂といった具合のお話でした。終盤の展開も、驚きと同時に胸がきゅんとして、素敵です。
野村美月先生の文章って、まあ僕がファンだからなのかもしれないんですけど、読んでいるだけでなんだかそわそわして、いてもたってもいられなくなったり、大きな声で叫びだしたくなったりして、やっぱり特別なんだなあと再確認させてくれた1冊でした。くれぐれもご無理はなさらずに、でもまたきっと続編が読めることを、心待ちにしております。


イラストは竹岡美穂さん。ゴールデンコンビの復活にただただ歓喜の舞。
妻科さんのデザインがとっても好みです。


文学少女』も読み返そうっと。