まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『楽園ノイズ』感想

楽園ノイズ (電撃文庫)

ストーリー
出来心で女装して演奏動画をネットにあげた僕は、謎の女子高生(男だけど)ネットミュージシャンとして一躍有名になってしまう。顔は出してないから大丈夫、と思いきや、高校の音楽教師・華園美沙緒先生に正体がバレてしまい、弱みを握られてこき使われる羽目に……
無味無臭だったはずの僕の高校生活は、華園先生を通じて巡り逢う三人の少女たち――ひねた天才ピアニストの凛子、華道お姫様ドラマーの詩月、不登校座敷童ヴォーカリストの朱音――によって騒がしく悩ましく彩られていく。恋と青春とバンドに明け暮れる、ボーイ・ミーツ・ガールズ!

青春。セッション。ライヴ。繋がる。
僕は杉井光という作家の描く音楽ラノベがほんとうに好きで、なんならこの本も読む前から期待が高まりすぎて緊張でちょっと手が震えてたし、ところどころの台詞回しやフレーズやいかにもなキャラクター設定やもったいぶった比喩表現や音楽トリビア杉井光を感じるたびに「あー」とか「うー」とか喘ぎながら読んだし深夜なのに何度も叫びそうになったしちょっと叫んだし、だから客観的な感想は書けないと思うので先にいっておきますけど今回の感想はたぶんポエムになります。ごめん。やっぱ僕杉井信者だったわ。超面白かったです。
圧巻の音楽描写とか文章全体に流れる美しい嘘とロマンとかいつもどおり褒めるべきところはいっぱいあるけれど一言だけでいうと。熱量のある物語でした。


自作の曲の動画を伸ばすために好きでもない女装をしてみた結果ちょっとした有名配信者になってしまった真琴。その秘密をちょっとダウナーな高校の音楽教師・華園先生に握られ、小間使いとして働くことになってしまう……。
中性的でつっこみ体質の少年が押しの強い年上女性にいいように使われる展開、この作者の本でもう5万回くらい見た気がするけど好きなんだよなあ。
そして登場するヒロイン・凛子がまた、「はいいつもの大トロです」という感じでたまらん。かつてコンクールを騒がせた天才ピアニストで? 気が強くて毒舌で? ちょっと浮世離れしてる感じね? あーハイハイ。好き……。
圧巻の演奏ぶりなのになぜか普通の高校に通っていて、しかもコンクールに出ることもしなくなった凛子。自分のピアノの音色を嫌う彼女に対して、ある行動に出る真琴。
学校の屋上で開かれる二人だけの対決、二人だけの共演、そして楽園ノイズ。相変わらず、この音楽描写は凄まじい。震えるほどうつくしい嘘で塗りかためた矢をまっすぐに飛ばしてきたかと思いきや、今度は津波のような熱で一気に押しつぶしてくる。毎度ながら音楽用語はまったく分からんのに凄みだけを無理やり魂に刻みつけられてしまう。このシーンはきっとこれから何度も読み返す。最高だ。


華道の家元の娘として生まれたドラマー少女・詩月。卓越した楽器と歌の技量を持ちながらその使い方を見いだせずにいた不登校少女・朱音。
それぞれの少女とまた出逢い、彼女らの問題に直面しては、右行ったり左行ったり遠回りしたり立ち止まったりしつつも、結局最後に音楽が繋ぐ。人と人も。思いと思いも。ある種の力技ではあるんだけれども、それくらいに音楽の力っていうものを感じるし、この作品のセッションの描写にはそれだけの説得力があるのだ。
なし崩し的に集まった4人。そもそも自分たちがバンドなのかどうかすらわかっていない真琴を尻目に舞い込んでくるライヴイベント。
3人の素晴らしい才能と自分を比較してしまい思い悩む主人公。そもそも彼を中心にして集まってきたのに、そんなことにすらも気づかなくて、この鈍感! トンチンカン! フレンチカンカン!
まあその気持ちもわかるのだけれど、でも他ならぬ真琴のことを待っている人だっている。すぐそばに。ステージの前に。そして画面の向こうに。
ライヴステージのシーンは、もう、読んでて酔っ払っちゃうかと思ってしまった。息もできないし動悸もするし手汗が凄いし、なんか悪い成分でも摂取してんじゃないのか。見事。見事でした。
いつものように文末には(了)とだけあって、続きが出る保証はどこにもないんだけれど、頼むからこの素晴らしいバンドの今後を、少しでもいいから長く読んでいたい。凛子と詩月と朱音におちょくられる真琴が見たい。新しいライヴを見せてほしい。だから全世界のみんなに読んでほしい。よろしくお願いします。


イラストは春夏冬ゆうさん。スタイリッシュすぎる表紙からもはやパワーしか感じない……。
QRコードの仕掛けも素晴らしかったです。お洒落すぎるよ。


恒例となっている作者による楽曲解説。一読の価値あり↓
楽園ノイズ楽曲解説 - 音楽は稼いだ!!