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ライトノベルの感想

『こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~』感想

こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~ (電撃文庫)

ストーリー
《フウ》――最下層の孤独少女。友は小鳥のアサと、ジャンク屋の片隅で見つけた、古いラジオのみ。
《カザクラ》――マイペースな腹ぺこガール。出会った瞬間からフウを「お兄ちゃん」と慕い、陽気な笑顔でつきまとう。
そんな二人が出会ったここは、世界にただ一つ残るヒトの国。異形の怪物たちが支配する果てなき砂漠の真ん中で、ヒトビトは日々の貧苦を喜びとし、神の化身たる王のために生きねばならない――。だが、彼女たちが知る世界は、全部大ウソだった。たくさんの知恵と一握りの勇気を胸に。今、《世界一ヘヴィな脱出劇》が始まる。第26回電撃小説大賞《銀賞》受賞作。風の名を持つ、二人の少女の物語。

第26回電撃小説大賞〈銀賞〉受賞作品。貧民として生まれた少女がラジオで得た知識をもとに荒廃した世界で生き抜いていく少女バディ×逃亡×メカアクション。
母の死によって孤独となった主人公が、四苦八苦しながら生きながらえ、成り上がり、そしてとある少女と運命の出逢いを果たす……息を呑むストーリー展開が魅力でした。
主人公の生きがいだったラジオ放送からつながる伏線回収が胸アツで良かったー!


大戦によって世界は滅び、国家は危険生物が蠢く砂漠と荒野の中にただひとつを残すのみ。そんな国の片隅で最下層民として生まれた少女フウ。
最低限の補給金だけをもらい、水を買いに都市まで毎日何時間も歩くだけの生活。母の死去で天涯孤独になった彼女は、都市のジャンク屋でラジオなるものを発見します。
そもそもラジオ局が存在しないこの国。誰かが勝手に流している戦前の再放送。でもラジオが教えてくれる知識は、少女に生き延びる術をもたらしてくれるのでした。
ごく初歩的な読み書き計算くらいしかできなかった彼女が、ラジオから流れてくる知識をぐんぐん吸収して、金儲けができるようになり、都市で仕事を得て、でもやっぱり孤独なのは変わらなくて。
あるときそんな彼女の前に現れた、やたらと懐いてくる風変わりな少女カザクラ。何者も寄せ付けない雰囲気のあったフウが、彼女の登場によって初めて「セリフ」を発した瞬間はドキリとしました。演出が見事すぎる。


なんだかんだで面倒見のよいフウと、純粋にフウを慕う子犬のようなカザクラ。しかしカザクラは国家から追われる存在で。
大切な相棒のため、国が差し向ける追手から何度も逃げつづけ、そして国がひた隠しにしてきた秘密に気づくフウ。
閉じられた国家からの脱出。それは少女二人ではとても険しい道のりではあるのだけれど、ラジオがくれた知恵が、頼りになる仲間が、そしてなんとしてもやりとげるという思いが、彼女たちのハートを突き動かす。
逃げる少女たち。追う秘密警察。一世一代の脱出劇は、スリルとスピード感に満ちていて読み応えがありました。
先生からのメッセージの場面がほんとめちゃくちゃ良かったんだ……。ネタバレだから詳しくは書かんけど。これがラジオの良さだよなあって思いました。
綺麗に終わったので続くかどうかは分かりませんが、サミヤさんの今後の話なんかも読んでみたいな。


イラストはカーミン@よどみないさん。スタイリッシュな絵柄がかっこいい。表紙力たけーな。
カザクラの表情が百面相みたいで好きです。


チオウの生物一覧とか出してほしい。