まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『ジャナ研の憂鬱な事件簿4』感想

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (4) (ガガガ文庫)

ストーリー
海新高校ジャーナリズム研究会の啓介と真冬。互いに意識しつつも、大きな進展はないままだった。ある日、ジャナ研の面々は介護施設を訪問することに。そこには、身元不明の入居者がいた。真冬の勧めで、卓越した推理力を他人のために活かすことを考え始めた啓介。だが、思いがけず苦い真実に行きつき、その公表を巡って真冬とぎくしゃくしてしまう。そんなとき、ユリが事故に遭い――(「スウィート・マイ・ホーム」)。甘くも憂い青春を切り取った「金魚はどこだ?」「ジュリエットの亡霊」など三つの短編を収録。

切なさとほろ苦さが束になってかかってくる青春学園日常ミステリー、待望の第4弾。
啓介と真冬が初めて本気でぶつかりあい、そしてすれ違ってゆくさまが描かれるのですが、これぞ青春という感じの息苦しさでもう最高でした……!
あと今回はユリがやたら可愛らしくて困ってしまった。


過去の失敗から謎を解くことに自制をかけていた啓介だけれど、その推理力は長所だと真冬から熱く褒められ、自分の力を人のために使ってみようかと考えはじめます。
周囲の人のことばかり持ち上げて自分を卑下している啓介が少し自信を持つきっかけになるのなら、それはそれでとても良いことだと思うのだけれど……そういうときに限って、こういう展開が待ち受けているんだよなあ! 完全にフラグ立ってたもんなあ!
第2話「スウィート・マイ・ホーム」での終盤。介護施設の入居者にまつわるとある謎について、啓介が解き明かしてしまった真実を公にすべきか否か。人の善性を信じる真冬の意見と、現実を見る啓介の意見は真っ向から対立します。
んー、真冬からすれば、消極的な啓介の意見がただ事を荒立てたくない日和見主義みたいに見えてしまうというのも、まあわかるんですが、個人的には啓介に一票ですかね。正しいとか正しくないとかいう話でもないような気もしますけど。
しかしこのすれ違いはなかなか厄介です。どちらが悪いわけでもなく、どちらも本音を言った上でぶつかっているわけで、これはちょっと後を引きそう。いいぞ青少年、思う存分すれ違ってくれ。それもまた青春の味というものよ……(無責任に苦みを楽しむ観客の顔)。


ミステリーとしては第1話「金魚はどこだ?」が一番かと思いますが、短編としては第3話「ジュリエットの亡霊」が好みでした。放課後の学園で起きた幽霊騒ぎから始まる、胸がぎゅっとするような切ない謎解き回です。
誰よりも頑張っている人が、どうにもできない理由で何かを諦めなくてはいけない時、そんな相手に対して自分は何を言えるのだろう。あまりの理不尽さにふつふつと怒りが湧き上がってきます。
今の彼女に頑張れとはとても言えないけれども、どうかまた羽ばたいてほしい。夢をつかみとってほしい。心からそう願います。
しかしこの終わり方よ! イラストもあいまった、この絶妙な後味の悪さ……素晴らしいな……。


上級生にこの啖呵の切り方。由香子さんつおい……。