まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミンXIV』感想

ストーリー
ついに帝国本土へと侵攻を始めたキオカ軍。国境近くの平原で対陣した両軍は激しく激突。爆砲の圧倒的な威力に塹壕戦で対抗する帝国軍だが、ジャンの知略はそれすらも貫き、戦線後退を強いられたイクタたちは厳しい防衛線を続ける。一方、海での戦いはそれ以上の危機に直面する。艦隊の全艦を爆砲艦で揃えてきたキオカ海軍を前に、帝国海軍はまともな戦闘にさえ持ち込めず撤退を開始。精霊通信の開通によって、戦場の全ての情報をリアルタイムで把握し対応するようになったジャン。指揮下の全軍をして「完全な軍隊」と自負する彼を相手に、イクタ率いる帝国軍は勝機を見出せるのか――。

とある怠け者の智将と帝国最後の姫君の戦いを描いた壮大なる戦記シリーズ、堂々の最終巻。
率直な感想としては、描ききったな、という感じ。必ずしも、僕が戦記ものに求めているものばかりではなかったけれども、イクタという1人の男の物語としては、最初から最後まで一本筋の通った見事な完結ぶりだったと思います。
でもまあ、すーんげえ正直なことを言うけれども、イクタがいてヤトリがいて、他の騎士団のみんなとシャミーユとでギリギリの命をつなぎながらも快進撃を続けていた、あの頃が一番楽しかったな……。僕にはこのエンディングは、少々切なすぎるよ。


迫りくるキオカ軍との最終決戦。それすなわち、精霊通信によって軍を思いのままに動かせるようになったジャンとの戦いそのもの。単純な物量とジャンの緻密な指示によって圧倒するキオカに対し、戦線をジリジリと下げながらの防衛戦を強いられる帝国軍。
そしてその主役は爆砲。騎馬や白兵戦がメインだった物語開始当初とは打って変わった戦争の形が描かれました。これが近代化ということなのかもしれないけれども、個人の武勇が戦を動かす最後の時代が遂に過ぎ去ってしまった感があって、ロマンは過去のものに成り果てて、どうにも悲しい。
それでも、我らが騎士団の面々をはじめ、スーヤにサリハ&スシュラ、そしてサザルーフといったキャラクターたちが最後の勇姿を見せてくれました。特にスーヤ、君は思えば1巻からずっと出ていたけれども、一番成長した人物のうちの一人かもしれないなあ(もう一人はマシュー)。今やすっかり女傑といった感じで格好良くて、いつの間にか好きなキャラになっていたよ。


我慢に我慢を強いられる戦い。その裏にあった元帥イクタの思惑。最後の戦いは愉快でも痛快でもない形で終わりを迎えます。もちろん、本来の戦いというのはそういうものなのかもしれないけれど……。
しかし、はあ、やっぱりこうなったか。そりゃさ、どこかで予感はしていたけどさ。
他にやり方はなかったのかとも思うけど、作中の皆だってことごとくそれを模索していて、でもこれ以外ありえないと結論が出てしまっているから、読者としても受け入れざるを得ないという無気力感。
誰よりもシャミーユのことを考え、シャミーユのために生きた男イクタ。いつもいつも格好悪いところを見せていたくせに、こういうときばかりズルいよなあ。ばーーーか。
エピローグのシャミーユが笑顔だった、そのことだけがただただ救いです。彼女にはこれから思う存分、幸せを謳歌してもらいたいですね。そりゃもう、先に旅立っていった人たち全員の分まで、思いっきりね。
最初にも書きましたが、何もかもが好きなことばかりの作品では決してありませんでした。でも読み終わった今、不思議と満足感があります。色々あったけどね、とりあえず7巻で読むのをやめなくて良かったと思うよ。これは本当の本当にね。


最終巻の巻末に次回作の試し読みを載っけるって、いいアイディア。面白そうです。楽しみにしています。