まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『オミサワさんは次元がちがう』感想

オミサワさんは次元がちがう (ファミ通文庫)

オミサワさんは次元がちがう (ファミ通文庫)

ストーリー
大学二年の雪斗には気になる女性がいた。芸術科の小海澤有紗。無表情、無感情で人と関わろうとせず、そこかしこに絵を書き散らすも、その落書きが数百万の価値を生む百年に一度の天才。人とのコミュニケーションが断絶してしまっているそんな小海澤さんが気になり、なんとかお友達にこぎつけた雪斗。しかし天才との変わった交流を楽しむはずが、彼女の重大な秘密を共有することになり――。次元が違う彼女との、もどかしくピュアなキャンパスラブストーリー。

桐山なると先生の新刊だー! と喜び勇んで買ったはいいもののジャンル的に期待していたラブコメじゃないようなので(それくらいにデビュー作が鮮烈だったのだ、許して)ちょっと置いといたんですが、もっと早く読めばよかったと後悔! 面白かったです。
天才画家のヒロインに秘められた謎。そんな彼女と会話しようと必死になる内に自然と惹かれていく主人公。
一緒にいてはいけない理由と、一緒にいたい想いと。切なさともどかしさが爆発する素敵な恋愛ストーリーでした。この落ちはちょっと完璧すぎるぜ……。未読の人は絶対にあとがきを先に読もうとしてはいけないんだぜ……。


主人公・雪斗が所属する大学の芸術科きっての天才・小海澤さん。彼女が描いた絵を見るために芸術学部まで通っているほどのファンである雪斗は、なぜか誰ともコミュニケーションを取ろうとしない彼女のことが気になってしまう。
小海澤さんのもとに連日通う中で時々会話をしてくれるようにもなって、だんだん可愛らしい一面も顔を覗かせるようになって。少し距離が縮まったかなと思った矢先に起こる異変。
ただ単純に芸術家らしい変わり者というだけなのかと思っていたのに、まさか小海澤さんにこんな秘密が隠されていようとは! 次元がちがうってそういう意味か! いやぶっちゃけめちゃくちゃ怖い描写でしたけど。ホラーかと思った。
しかし一度この秘密が明かされると、小海澤さんに対する見方がガラッと変わるというか、一気に彼女のことが愛おしくなってきます。どうにもできない理由から孤独になって、誰にも相談できずに、ただ一人で絵を描くだけの日々。どうにかして彼女のことを理解して、一緒にいてあげたくなってしまう……。


小海澤さんには、雪斗のことを避ける立派な理由があって。でも雪斗の方にも、小海澤さんに会いにいくだけの大きな想いがあって。
お互いにお互いのことが大切だからこそどうしようもなくすれ違う切なさ。でも小海澤さんの唯一の誤算は、雪斗の思いもかけない押しの強さでした。
いやめっちゃグイグイ行きますやん! 優男に見えてやるときゃやるんだなあ。でもこれくらい押していかないとね、小海澤さんの心の殻をこじ開けることはできないよね。
気持ちが伝わるようにはなっても、どうしても会話ができない時間は生まれてしまう。それはやっぱり切ないし悲しい。でも雪斗は小海澤さんのことを分かっているし、小海澤さんは雪斗のことを分かっている。それだけのことがひどく嬉しいし、ずっと一人だった小海澤さんにとっては奇跡みたいなことであるはず。
だからこそ。雪斗のことを大切に思うからこその決断。誰よりも一緒にいたい人だからこそ一緒にいられないって、運命ってなんて残酷なの……。
切なすぎる別れからの、ラストまでの展開は素晴らしかったです。最後の最後に明かされた小海澤さんの絵に込められた謎には完全にやられた。だめだ小海澤さん可愛すぎる。にやけちゃう。まだまだハードルも多いけれど、この微笑ましい二人の行く末に幸せな未来が待っているといい。そう願います。


イラストはヤマウチシズさん。髪の毛ばっさばさの小海澤さんがとても可愛い。
第六章扉の小海澤さんが特に可愛い。


ごんごんじー(やっぱり怖い)。