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ライトノベルの感想

『常敗将軍、また敗れる』感想

常敗将軍、また敗れる (HJ文庫)

常敗将軍、また敗れる (HJ文庫)

ストーリー
「貴様はこれまで父ローディアスと二度、長兄シャルクとは一度戦っているはず。そして、どの戦にも負けた」
ティナの声が少し弾んだ。
「しかし、まだ生きている」
世界最強の「ヴァサームントの騎士団」当主の娘、ティナは初陣にて『常敗将軍』と渾名される異端の英雄、ドゥ・ダーカスと出会った。陰謀に満ちた戦乱の世界で破格の生き様を見せる英雄ダーカスと、その姿を追いかけるティナや姫将軍・シャルナら魅力的なキャラクター達が織り成す一大ファンタジー戦記!

第11回HJ文庫大賞<大賞>受賞作品。「常敗将軍」と揶揄される異端にして破格の英雄が敗北必至の戦場を駆け抜けるファンタジー戦記。
直接的な武勲や計略の凄さではなく、伝説の傭兵としての生き様を見せることで主人公を主人公たらしめている、わりと見ないタイプの戦記モノかなと思います。
とにかく負けまくるのでともすれば格好悪い主人公だとさえ思えてしまうけれど、最後に全ての真意が明かされるとその働きぶりに感心してしまう。構成の妙を感じる1冊でした。


主人公・ダーカスは20年もの間戦場に立ち、そして敗北し続けながらも生き延び続けてきた歴戦の傭兵。
そんな彼が新たに託されたのは、隣の大国から侵攻された小王国ヘイミナルの救援だった!
いやあ、常敗将軍とか言ってもなんだかんだでカッコよく決めてくれるんでしょとか思っていたんだけれど、この男本当に負けまくる。
まず策を献上しても受け入れられないし、局地戦でも負けるし、民の犠牲だって出してしまう。多分何かの狙いがあってこんなことをやっているんだろう、そう予想はつくものの、仲間たちにすらその狙いを明かさないもんだから周囲の気持ちも離れていく。
そんなわけで、終盤になるまでのダーカスはわりとガチで魅力を感じない主人公でした。むしろ、剣技冴える新人少女傭兵のティナや、若手の傭兵団を束ねるアイザッシュらの方がよほど魅力的に思えます。


ダーカスが何をやっているんだかさっぱり分からないままにやってくる王国存亡の時。
ラストもラスト、全ての決着がついてから、ようやく彼の真意と目的が明かされる。
正直なところ、やっぱり「ダーカスすげー!」という感覚はあまりなくて、「なるほど、こういう主人公なのね」という妙な納得感というか、そういう気持ちの方が強かったです。これが、20年間生き延びてきた傭兵の戦い方なのかと。
ある程度の犠牲は仕方ないと割り切ってしまう姿勢など、見ていてスッキリしないことも多いけれども、どんなことをしでかしてくれるのかワクワクする主人公でもあります。
旅の仲間も増えたことですし、今後の話がどうなっていくか見ものですね。個人的にはシャルナの活躍を楽しみにしています。


イラストは伊藤宗一さん。ヒロインは可愛らしく、男性陣は荒々しく。迫力のあるイラストでした。
マルハルドの表情ときたら(笑)


ファンタジー戦記を名乗っておきながら地図のひとつも載せないとは何事か!(戦記ラノベ読み過激派)