まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『86―エイティシックス―Ep.3 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント―<下>』感想

ストーリー
敵<レギオン>の電磁加速砲による数百キロ彼方からの攻撃は、シンのいたギアーデ連邦軍の前線に壊滅的被害を与え、レーナが残るサンマグノリア共和国の最終防衛線を吹き飛ばした。進退極まったギアーデ連邦軍は、1つの結論を出す。それはシンたち「エイティシックス」の面々を《槍の穂先》として、電磁加速砲搭載型<レギオン>の懐に――敵陣のド真ん中に突撃させるという、もはや作戦とは言えぬ作戦だった。だがその渦中にあって、シンは深い苦しみの中にあった。「兄」を倒し、共和国からも解放されたはず。それなのに。待望のEp.3《ギアーデ連邦編》後編。なぜ戦う、“死神”は。何のために。誰のために。

生きることに目的を見出だせず、ただ1人、戦場を求めるだけ。実に危うく、またある意味で幼くすら見えるシンの姿。
命を燃やすような極限の戦いの中で、彼が出会ったものとは。
1巻ラストまでの物語を繋ぐ、完璧なエピソードでした。


<レギオン>の新兵器による超長距離砲撃。人類側にもたらされた壊滅的被害。追い詰められた彼らが選んだのは、史上最大規模の反攻作戦。そして特攻部隊を命じられたのは、またしても「エイティシックス」のメンバーだった。
エルンストも、グレーテも、シンたちの庇護者になった人たちは間違いなく人格者で、生存がほとんど見込めないような作戦に彼らを送り込むことを拒絶しようとするのだけれど、他ならぬシン本人は、自ら望んでその命令を受け入れる。
兄を討ち、未来の目的など何もないシン。そして他のメンバーも、シンほどではないにせよ、結局は戦場へ舞い戻ってしまう。十分戦ったのだから、もういいでしょうと周囲が言うのは簡単だけれど。彼らにとっては戦うことこそが生きることで、それこそが誇り。たとえ守るものがなかったとしても。
その生き様はあまりに切なくて、見ていて本当に苦しくなってきます。年若き彼らに自ら戦いを望ませるこの世界が、<レギオン>が憎くて仕方ない。


三国の共同による、大規模な反攻作戦は、しかしその実、たった15名のノルトリヒト戦隊こそが本命という、成功率を計算する方がアホらしくなるような作戦でした。
それにしても、ノルトリヒト戦隊を送り込むための秘密兵器! そして<レギオン>側の目標、巨大列車砲! 戦場のリアリティを描きだす一方で、こういう作者のロマンが溢れた設定が出てくると、なるほどこういうのが好きなんだなあと妙におかしい気持ちになりますね。
エイティシックスを敵中奥深くに送り込むためだけに動かされる三国の軍。火と機械と土と命が吹き飛んでいく。兵士が仲間が上官が、名も明かされぬままに散っていく。壮絶な戦場の描写は、さすがの迫力で手に汗握ります。
そしてやはり、エイティシックス5人+1の戦いぶりは出色。1人また1人と囮役を買って出る中、奥へ奥へと突き進むシン。あまりに巨大な敵の総大将と一騎打ち。
もうだめか、と思われたそのとき……かーっ! そうきましたか! ずるいなあ。めっちゃずるいなあ。こんなの痺れちゃうじゃん。運命の悪戯に乾杯ってやつですか。
ライデンやフレデリカの叱咤を受け、そして再会を経て、初めて未来に目を向けることができたシン。少しずつ、戦い以外のことに興味を持てるようになったらいい。そう思います。
さて、ここまではあの1巻ラストまでの話でしたので、2~3巻は緊張感はありつつも誰かが退場するような心配はなかったわけです。ですから、少なくとも彼らは大丈夫と安心して読めたのですが、今後はそうもいきません。もちろん、<レギオン>が滅びるまで全員で生き延びてほしいと切に願っているのですが……。
次回は「ライトな話」ということですので、とりあえずは大丈夫かな? 殺伐としたお話が続いたので、エイティシックスと「彼女」の日常なんかも描いてもらいたいですね。楽しみにしています。


戦域図がとてもありがたい。相当こだわって作っていることを実感。