まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『青春デバッガーと恋する妄想 #拡散中』感想

ストーリー
二次萌え至上主義の歩夢がアキバ特区で偶然出くわしたのは、スクールカースト最上位のいけ好かないクラスメイト、衣更着アマタ。――普段オタクを蔑む彼女が、何故こんなゴリッゴリの萌えARゲームに夢中になっている? まさかこいつは――。だが歩夢がアマタに近づいた時、特区を埋め尽くすAR空間に重篤な異変が発生。それは、隠れオタとして自分を偽り続けていたアマタの、とある悩みが引き起こしたものだった。さらに腹黒ロリっ子の瑠璃や金髪たわわなコスプレ女のノエルと、歩夢を取り巻くオタショップのバイト仲間までもが、次々とアキバに異変を発生させ……? 時には傷つき、時には傷つけながら。ちょっぴり歪んだオタクな青春が始まる。

AR技術が格段に進化した「アキバ特区」に通いつめるオタク高校生たちの痛みとバグと青春を描く。
旭蓑雄作品にしてはわりあい分かりやすくまっすぐに思春期の少年少女の諸問題を描きだしつつ、ARが満ち溢れる街という凝った舞台設定やキャラクターからふと湧きでる心理学的もしくは哲学的なアレコレに、ああこのSFのセンスはやっぱり旭蓑雄だわということを確認させられるお話でした。
あの子もこの子もそれぞれの痛みを抱えて生きてる。他人にさらけ出すのは怖いけれど、それができるってあったかいよね。


視覚デバイスと聴覚デバイスを装着することで、自分の体に拡張現実の衣装をまとわせることができるし、ポケットのモンスターよろしく収集対象となった3Dメイドを追いかけることだってできる、そんな夢の街アキバ。
そんなアキバでバイトに勤しむオタク・歩夢や、彼のバイト先の少女たちは、見た目にはとても賑やかで毎日楽しそう。
歩夢はオタクだけれど、金髪コスプレイヤー・ノエルとも、ひとつ年下のロリ好き少女・瑠璃とも仲が良くて、その上学校の美少女クラスメイト・アマタとも新しく友人関係になっちゃって、なんだこいつ人生謳歌してんなって感じです。


しかしそんな少年少女も、心の奥底にそれぞれ悩みや痛みを持っていて、それがアキバの拡張現実にバグとして表れてしまう。
人の意識のビッグデータから生まれたアキバの監視者、オーウェリアン、精神的外傷、幻の双子……。うおー、理屈っぽい。コレだよコレコレ。相変わらずで安心した!
ノエルも瑠璃も、そして当の歩夢も、抱えたものは存外に大きくて、だからこそ自分ひとりで抱えてしまいこんじゃって。
自分の弱さをさらけ出すのはとても怖いし、時には傷つくこともある。でも共有できる相手がひとり見つかったら、それはとても素敵なことだったりもする。
どこまでも不器用な登場人物たちの、無様で愛に満ちたぶつかり合いに乾杯。


イラストは白井鋭利さん。いっぱいイラスト見てますけど、いつ見てもいいよなあ……。
モノクロイラストなのに光を感じるのが凄いですよね。


これは紛れもない『エデン』だと思うしここに見開きイラストを持ってきた英断に拍手喝采。