まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。』感想

ストーリー
やりたいことが見つからず、漠然と都会を夢見る優等生の香衣。サッカー部のエースで香衣の彼氏のはずの隆生。香衣に一目惚れする学内唯一の不良・龍輝。ある秘密を隠すため、香衣の親友を演じるセリカ。4人が互いに抱く、劣等感。憧れ。恋心。後悔。あの駅で思いはすれ違い、一度きりの高校生活はとどまることなく進んでいく。「どうしてすべて手遅れになってからでないと、一番大事なことも言えないんだろう」これは、交錯する別れの物語。

高校生の男女4人の視点から描かれる、恋とすれ違いと別れの青春群像劇。
はー、めっちゃいい。なんだこのよさは。めっちゃいいぞ。大澤めぐみ先生の描く高校生って、どうしてこんなに「高校生してる」んだろ。ふしぎだ。文体かな? わかんないけど。
4人それぞれが愛しいんだけれど、やっぱり私は諏訪くんに感情移入しちゃいます。手に入っていたはずのものが、遅れてしまったがゆえにもう手に入らない。切なくて胸がきゅうっとして、たまらんです。


大澤作品の何が魅力かといえば(まだ今作で2作目だけれど)、個人的にはやっぱり文章だと思います。
高校生の一人称文体なわけですが、これが妙にいい。特に女子の方の語り口がいい。何か大層なことを考えている部分よりも、たとえばセリカがどんなに可愛い少女なのか香衣が語りまくるところとか、わりとどうでもよいことを垂れ流している部分が特にいい。楽しい時間を過ごしたはずなのに、ふと振り返ったら何が楽しかったかわからない中高生のあの感じが出ていて、なんというか、リアリティのあるサイズ感でいいのです(本当の女子高生のリアルがこうであるかどうかは知らない)。
前作の感想でも「喉越しがいい」って書いた気がするけど(あ、このブログでは感想書いてなかった)、リズミカルで独特のテンポがあって、ハマるとぐいぐいいける。逆に、ハマらないとそうでもないかもしれないが。流れるような語りの中に、時々「おや?」っていう表現が紛れていて、それがいい具合に引っかかってくれる(具体的には「~的」を「~てき」と書くところとか)。なんだか色々書いたけど、とにかく好き! なのです。


で。肝心の中身なんですけど。タイトルでもプロローグでも明確に「別れ」が示唆されていて、つまりヒロインたる香衣が誰かと別れているんだけれど、じゃあその相手は誰なのか、4人の視点から描き出される高校生活3年間の中で、それが語られてゆくわけです。
語り手は4人だから4章に分かれているわけですが、香衣の章では香衣に、諏訪くんの章では諏訪くんに、という具合に、次々に応援したい相手が変わっていっちゃいますね。しょうがない、みんな主人公だから。やたら自己評価が低い香衣が、他の章では才色兼備の高嶺の花みたいな扱いになってたりするのは、群像劇の面白みってやつでしょうか。
4人ともみんなそれぞれいいやつだし、頑張れって思うんですが、全部読んだあとだとやっぱり「諏訪くん……(涙)」ってなりますね! 次にセリカ
なんだろう、いつもならラブラブチュッチュしてるところにばっかり目が行くんですけど、作風のせいかな、なんだかポエミーな気分なんですな。切なかったり息苦しい環境で今をぎゅっと飲み込んで前に進もうとする彼らに「ウオオー! ガンバレー!」ってなっちゃう。これもセリカの言う「環境の奴隷」ってやつですか。違うか。
こんなにちゃんとしたふたりの物語があっても、恋の結果は必ずしもそれに縛られなくって、ぽっと出てきた感さえある相手に春が巡ってきたりするんだなあ。やるせないよなあ。それがいいんだけどなあ。
4人は4人の道を選び、離れ離れになってゆく。別れは悲しくても、一歩踏み出した彼女の道はきっと明るい。それは他の3人も同じだし、いつかどこかで4人全員が再会して笑いあうような日がくるんだと、そんな未来を想像します。ほろ苦くも清々しい青春の物語に拍手。


イラストはもりちかさん。なんといっても、表紙、プロローグ、エピローグの差分イラストが格別でした。
セリカもかわいい。ぱっつん女子は正義だ。


これ、松本の高校生が読んだら破壊力がまた違うんだろうなー! 長野の書店のみなさん、フェアとかどうですか!