まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

晴追町には、ひまりさんがいる。 はじまりの春は犬を連れた人妻と

ストーリー
心に傷を抱えた大学生の春近は、眠れない冬の日の深夜、公園で白い犬を連れた女性に出会う。
犬の有海さんを「旦那さま」だという彼女・ひまりさんは、近くのクリーニング店で働く人妻だった。
彼女とともに、晴追町の優しい人々と触れあううちに、春近はどんどんひまりさんに惹かれていき……。



野村美月先生の新作。朗らかな人妻・ひまりさんと、彼女に恋をしてしまった大学生・春近が町の人々と織りなす、ハートウォーミングストーリー。
いつも言っている気がしますが、素晴らしかったです。野村先生のやわらかな筆致で、町の人たちの恋や、悩みや、思いが、丁寧に描き出されていました。
人々のちょっとした事件を優しく解決していく一方で、謎めいた人妻のひまりさんにどんどん惹かれていく春近の、もどかしくて切ない恋がまたいいですね。


大学受験で失敗してから何かにつけて失敗続きで、すっかりナイーブになってしまった大学1年生の春近。
そんな彼は、深夜の公園で犬を連れた心優しき人妻・ひまりさんに出会います。
人の気持ちを汲み取ることに長けたひまりさんの小さな助言で、春近本人や、周囲の人々が次々に笑顔になっていく。
まるでシャツをクリーニングするかのように、こじれた関係や、重苦しい思いが、晴れやかな結末へと向かってくれて、胸が温かくなりました。


中には、どうにもならない思いもあります。春近のひまりさんへの恋や、巴崎の恋のように。
ひまりさんは、夫は研究旅行中という触れ込みで、夫の名前を飼っているサモエド犬に付けていたりするし、ともすると未亡人かと思ってしまうくらい、夫の影がない女性です。
彼女と一緒に町の人たちと触れあう中で、何度も笑顔をくれた彼女に、どうしても惹かれてしまうのは、仕方のないことなのかもしれません。
でも、それはやっぱり許されないことで。夫のことを幸せそうに話すひまりさんはとても素敵で、そしてその暖かな笑顔が、同時に胸をきゅっとしめつけてきて、切なくさせられました。たまりませんな。
巴崎も、報われない恋の同士として、とてもいい味わいを出してくれるキャラクターでしたね。彼女にも、いつか運命の人が現れてくれることを、願わずにはいられません……。
読後感は甘やかでありつつ、ほんのりほろ苦くて、満足度の高い1冊でした。ぜひ、「夏」や「秋」があることを期待したいですね。


あの漫画だ! と思っていたら、やっぱりあの漫画だった!