まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

金属バットの女

金属バットの女 (HJ文庫)

金属バットの女 (HJ文庫)

ストーリー
5月のクソ暑い日に、世界一可愛い女の娘と出会った芦原幽玄。
その翌日、起きると家族が全員殺されていた。
殺したのは金属バットを持った先日の女の娘で、そして彼女は世界を滅ぼす化け物から人類を救うヒロインだった……。



第9回HJ文庫大賞<特別賞>受賞作品。
金属バット1本持って人類の敵「試験官」を殺す世界一可愛い女の子と、たまたま彼女に惚れられた幸せで不幸な少年とのボーイ・ミーツ・ガール。
ああ、これは確かに「特別賞」だ……。際立って異常な主人公とヒロインの甘ったるい恋模様から、色んな意味で目が離せません。
品のない一人称で描かれる、これといって山も谷もない物語ですが、それが不思議と痛快でした。奇書と言ってしまえば、それまでなんですけど。


全部で十三体現れるという、何億もの人間を殺す化け物『試験官』。
ヒロイン・椎名有希は、その化け物に唯一対抗できる人間で、故にどんなワガママも許される世界の救世主です。
出会いはほんの偶然、暑い駅で飲み物を奢ったこと。それで、主人公の幽玄は、両親を殺され、兄と妹を殺され、祖父を殺され、そしてみんなを殺した椎名有希と一緒に住むことになりました。
家族を殺されたのに、椎名有希を恨むでもなく、平然と恋人のように接する幽玄。なぜかって、椎名有希が可愛いから。惚れたから。それだけのこと。
異常な女の娘と、異常な少年。一見無邪気にも思えるふたりの恋は、いつ何が破綻してもおかしくないようで、本人たちはもちろん普通に恋愛を楽しんでいるだけなんでしょうが、こちらとしては緊張感たっぷりでした。


次々と『試験官』を屠っていく椎名有希。どんどん椎名有希への「好き」を深める幽玄。
そして、どうやらこの小説の根幹に関わっているらしい、謎の「クソガキ」。
いやはや、この終盤はなかなか、扱いに困る内容でしたね……。観念的といおうか、メタフィクショナルといおうか、これもセカイ系っていうの? まあ私にはどれもよく分からないんですが……。
なんにせよ独特の読後感でした。これを新人賞で出そうというんだから、凄いわ。痺れるね。
作者には、このままぜひ自由な作風を続けてもらいたいものです。新作に期待します。


イラストはryugaさん。なんといってもこのインパクト抜群の表紙が素晴らしい。
あと、椎名有希はやっぱり可愛かったです。


作者名を章題にしている作品は、さすがに初めて見た気がする……。