まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

下読み男子と投稿女子 〜優しい空が見た、内気な海の話。

ストーリー
高校生ながらラノベ新人賞の下読みのエキスパート・青は、ある日応募原稿の中に、同じクラスの氷ノ宮氷雪の作品を見つける。
“氷の淑女”と呼ばれる孤高の少女が、フォント変えや顔文字や擬音だらけの作品を書いていることに驚く青。
思わず氷雪に話しかけてしまった結果、彼女の投稿作にアドバイスをすることになるのだが……。



ひょんなことから出会った下読みの少年と投稿者の少女が織りなす、どこまでも優しい恋愛青春ストーリー。
はあーもう、素晴らしい。そのひと言。野村先生の描く恋愛模様は、どうしてこうも胸をきゅっとしてくるのでしょう。
自分に全く自信を持てないヒロインが、自分の書いた作品の主人公に自己を投影させて恋を諦めかけてしまう……そんな彼女の不器用さが、健気で切なくてたまりませんでした。絶品です。


主人公の青は、一介の高校生ながら月何十作もの投稿作を読む“下読みのプロ”。
どんな出来の作品でも必ず面白がって読めるという、彼の読者としての才能に打ち震えました。なんなのこの器の大きさ。羨ましい!
投稿作のいいところを必ず見つけて、褒めて伸ばして、ちょっと変えてみるとより良くなるところには的確な提案をしていく。そんなファンタジーなレベルでの読者力の高さを披露してくれる青だからこそ、氷雪の創作を手伝うことができたに違いありません。
氷雪は、類まれな容姿を持ちながらも全く自分に自信が持てずにいる女の子です。学校では緊張で顔が固くなってしまって、凛とした美貌が余計に他人を遠ざけてしまう悪循環。
でも青がその緊張をほぐしてみたら、意外なほど恥ずかしがり屋だったり打たれ弱かったりで、なんていうかめちゃくちゃ可愛いのです!
自分だけに見せてくれる、クラスメイトが誰も知らない彼女の顔……こんな女の子と毎日会っていたら、それはもう、そうなるでしょうね。


快活で人当たりがよくて、誰からも好かれる人気者の青。
そんな彼に淡い想いを抱きつつも、自分とは釣り合わないと思い込んで沈んでしまう孤独な氷雪の姿に、胸がきゅーっと締め付けられました。
青と一緒に書いた投稿作の登場人物である、明るく優しいヒロインに青を重ねあわせて、主人公の恋が叶うはずないと考えて悩んでしまったりとか、なにこの可愛い生き物は。
一方の青は青で、氷雪みたいな綺麗な子と自分が釣り合うわけないと思っているのだから、本当に不器用だねあんたたち。もちろん、そんなすれ違いがたまらないわけですけどね! ごちそうさまだよコンチクショウ!
大人の助けを借りたり、逆に大人を説得したりしながら、ついに物語を完成させるふたり。そしてふたりは、もちろん……。
奇跡のような出会い方をした男の子と女の子が、それぞれちょっと一歩を踏み出して、共に歩んでいく。ニヤニヤとキュンキュンと、素敵が詰まったお話でした。ありがとうございました。


イラストはえいひさん。青が印象的なイラストですね。もっとカラーをたくさん見たい。
文中では、ヨロイザメを見つめる氷雪のイラストが特に気に入っています。透明感があっていいですね。


まさか壁ドンまで仕込んでくるとは。