まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

ゼロから始める魔法の書

ストーリー
“獣堕ち”と呼ばれ人々から蔑まれる半人半獣の傭兵は、魔女を嫌っていた。
ある日彼は、世界を滅ぼしかねない魔法書【ゼロの書】を探す魔女・ゼロと出逢う。
傭兵は、人間の姿にしてもらうことを条件に、大嫌いな魔女の護衛を引き受けるのだが……。



第20回電撃小説大賞<大賞>受賞作品。
獣堕ちで魔女嫌いの傭兵と、「魔法」という技術を生み出した魔女・ゼロが出逢い、旅をする中世ファンタジー。
さすが大賞というだけあって、最初から最後まで安心して読める面白さがありました。
お互いに人付き合いに慣れていない獣人と魔女が、不器用に親交を温めていくストーリーに、胸がほっこりさせられます。


主人公が獣人というのは新鮮ですね。獣人であるがゆえに、魔女たちからは命を狙われ、人間たちからも避けられて生きてきた彼。
ずっとひとりで生き抜いてきて、ひとりに慣れてしまった傭兵ですが、ゼロと出逢ってからは全てがガラリと変わってしまいます。
人と一緒にいることに対する違和感がなくなり、その楽しさを思い出していく。ベタベタな展開かもしれませんが、それがいい。
ヒロインのゼロは、色々な意味で魅力的なキャラクターでしたね。
見た目に反して相当長い年月を生きているとあって、思慮深く老獪で、落ち着いた口調で話す彼女。「魔術」しか知らなかった魔女たちの中で、圧倒的に便利な「魔法」を作り出した天才っぷりも格好良いですよね。
一方、外の世界に出たことがないために、街や人の営みを目にしたときには、童女のような無邪気さも見せてくれます。このアンバランスさが可愛い。


初めは単なる探しものだったはずが、気付けば国を揺るがす陰謀の真っ只中。
その影でうごめく、アルバスや十三番といった個性溢れるキャラクターたち。
次々にやってくる問題の中、雇い主と雇われた者というだけの関係は、本人たちも知らぬ間に、少しずつ変化していきました。
事件は解決したものの、これで終わってしまうのは寂しいですね。傭兵は人間に戻ることができるのか、ゼロとの間に恋愛感情は生まれるのかなど、気になることはいくつも残されていることですし、ふたりの今後の旅路に期待するとしましょう。


イラストはしずまよしのりさん。口絵の色合いがファンタジーらしい懐かしさを感じさせてくれるカラーで好きですね。
アルバスのキャラデザは見事という他ありません。


古着屋の店主の気持ちも分かる。よく分かる。