まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る

ストーリー
珠山大学二回生で自治会執行部に所属する波多野ゆかりくん。
地面に落ちていた紐を辿って森に入った彼は、言葉を喋る謎のうさぎと出会う。
その「うさぎさん」は、耳で人の『縁』を結んだり切ったりすることができるらしく……。



野崎まど先生の新作と聞いて飛びつきました。そしてあらすじに愕然。
ハートウォーミング・ストーリー……? ハートウォーミングってなんだ? もしかしてハートとウォーミングには私たちの知らない意味が隠れていたんじゃないか?
などなどさんざん邪推しつつ読んでみたところ、なんとまあ本当にハートをウォーミングしてました。至極まっとうなハトウォミでした。ぶっちゃけ呆気にとられました。
今作には読者を手玉に取るどんでん返しも、「やられた!」と思わせる最後の爆弾もありません。
ごくごく平凡な大学生がちょっとした非日常と出会って繰り広げる、まったりほのぼのとした日常の物語。なのに驚くほど引きつけられるし、読後の満足感もたっぷりな、不思議なお話でした。
いったい何がいいんですかね。何気ない会話にしっかりと息づくセンスの匂いがいいのか、はたまたうさぎさんをはじめとするキャラクターに魅力があるのか。何はともあれ、面白かったです。


人と人の間の「縁」。それは恋人の縁だったり、友人の縁だったり、家族の縁だったり、もっとたいへんな縁だったり。
そんな縁を司るうさぎさんと、なぜか縁の紐が見えるようになってしまったゆかりくんを主人公に据えた、人の縁をめぐるエピソードが四話収録されています。
個人的に好きなのは第二話、高千穂さんのお話。男3人に女1人という悪魔のような構成ながら特に恋愛沙汰になることもなく(裏ではあったのかもしれないけれど)、まさにサークルのばか騒ぎ仲間という感じの気持ちのいい友人関係。
最後に大好きな仲間との夢を形にしたいという彼らの思いには、きゅうと胸が締め付けられました。「縁」の使い方も上手かったです。
いちばんほっこりしたのは第三話、篠岡君のお話。親子っていいものですよね。
聡明で我慢強い少年だからこそ気付けなかった簡単なこと。これからはもう少し素直に甘えることができるかな。
ゆかりくんのこういうお人好しなところ、嫌いじゃないです。西院さんは理解ある上司。
もし作中にヒロインというものが存在するのならそれは西院さんだと思うのですが、そんな西院さんがメインに据えられたのが第四話。
第一話から通してずっとそうなんですが、「大切な誰かのために何かする」という人の営みに温かさを感じます。切ないけれど清々しい、素敵なお話でしたね。


さて、野崎先生といえば単巻作品のイメージですが、これはもしかして続きが出るのでは? 出てもおかしくない内容ではあると思います。
ゆかりくんの縁の先も気になりますし、西院さんの今後もぜひ読んでみたいです。期待してもいいでしょうか。
続きが出てくれると信じて、楽しみに待っています。


むしろそっちのクリープをなぜ知ってるのか。