まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

楽聖少女3

楽聖少女3 (電撃文庫)

楽聖少女3 (電撃文庫)

ストーリー
初オペラの公演失敗で落ち込むルゥのもとに届いた、プロイセン王国での再演依頼。
喜び勇んで楽譜の書き直しを進める彼女の身に、やがておそるべき異変が襲いかかる。
その原因を探る中で、ユキはベートーヴェンの隠された過去に迫っていく……。



いつか来るだろう、いつか来るだろうと思っていたあの悲劇のイベントが、遂にルゥにも降りかかりました。
ベートーヴェンについては、漫画の伝記を少々目にしたことがあるくらいなのですが、少なくとも、幸せに満ちた円満な人生だった、という風に読んだ記憶はないのですよね。
もちろん、既に史実からはだいぶかけ離れてきているわけですから、ルゥの人生も彼のようになるとは限りませんけれど、こういったイベントがしっかり起こってしまうのを見ると、やっぱり色々と不安にさせられてしまいます。
今回は特に、ルゥのこと以外でも気持ちが沈むような事件がたくさんで、全体的に雰囲気が重くなっていたような気がしますね。
それにしても、ユキとルゥですよ。わざわざメフィがおちょくらなくても完全に夫婦にしか見えません。なんてこった。
鈍感極まるユキはともかく、ルゥの方は実際のところ、ユキのことをどう思っているのか気になっていたのですが、どうやら大方の予想通りベタ惚れだったようですね。最高のニヤニヤをありがとうございます。誰かこのとろけ落ちそうな頬を支えておくれ。


今巻でのテーマとなったのは、ベートーヴェン唯一のオペラ『フィデリオ』です。
オペラということで、『英雄』や『熱情』のときとは異なり、お話の焦点になったのは、曲よりもむしろ脚本の方でした。この作品では、何を置いてもまず音楽描写が大好きということがあって、そういった面では少し物足りなさもありました。
でも、脚本の改稿に思い悩む姿や、熱に浮かされながらもオペラへの情熱を語るその口調は、ルゥ=ベートーヴェンの芸術家としての熱い魂が強く感じられるものでした。
芸術がどういうものかなんて私には全然分かりませんけれども、こうやって煮えたぎる何かがあって、それを伝えようとする意志があって、私たちの心に訴えかけてくるものがある。こういうものに、なんとなく「いいなあ」と思わされるのですよね。
ああ、情熱といえば、ハイドン師と、そして何よりミヒャエル師への言及をしないわけにはいきませんね。まあ音楽なんだか格闘なんだか、微妙なところですけれども、熱さで言えば間違いなく作中最強です。
正直この兄弟と闘魂烈士団はネタキャラだと思っていました。ごめんなさい。少し考えを改める必要がありそうですね。
ぶっちゃけ全然、音楽家としての活躍ではなかったんですが、それでもこの絶望的な戦いの中でひとり立ち上がるミヒャエル師の姿に、思わずぐっときてしまいました。
闘魂。そんなに好きなことばではなかったはずなのですけれど。おかしいな。


ベートーヴェンの過去に秘められた謎がひとつ明かされて、一方でまた新たな謎が浮かび上がりました。
ひとまずの窮地は脱したようですが、さて、ルゥの記憶や病気はどうなったのでしょうか。
そして、一連の事件を通してさらに絆が深まったユキとルゥの関係は、今後どのように動いてゆくのでしょうか。
歴史や音楽史との交わりも含め、これからの展開への期待がさらに高まりますね。そろそろあの最大の有名曲が来てもいい頃だと思うのだけれど……ともあれ、次巻も楽しみです。


『英雄』がまさかこんな風にストーリーに関わってくるなんて。ファン感涙。