まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

白銀の救世機

白銀の救世機 (MF文庫J)

白銀の救世機 (MF文庫J)

ストーリー
突如として現れた謎の生命体・XENOに支配された世界で、人類は感情を失った生物、ゼノイドへと進化を遂げ、生き残っていた。
その中でなぜか感情を持って生まれた少年・アルツは、ゼノイドとしては落ちこぼれだった。
ゼノイドの都市で生き残るための選別試験の途中で、アルツはコールドスリープしていた旧人類の少女・ナユキと出会い……。



第8回MF文庫Jライトノベル新人賞<最優秀賞>受賞作品。まさかのロボットものですよ。びっくり。
アニメはともかく、ロボットもののライトノベルにはそれほど興味はなかったのですが、面白かったです。
巨大ロボットと人類の敵との派手なアクションはもちろんですが、何よりもまず世界設定に引き込まれました。旧人類がほとんど滅亡してしまった世界で、感情をなくし、機械のように生きるゼノイドなる人々。都市がひとつ残っている他は全て永遠に溶けない雪に閉ざされ、動くものは天敵XENOだけ。
そんな滅びゆく世界のお話なのに、決して重くなりすぎることなく、むしろ主人公やヒロインたち、そして巨大ロボット・ゼストマーグの戦いからは、未来を目指して突き進む若さや勇気、元気を感じました。


この作品における最重要キーワードは「感情」でしょう。ゼストの力の源であり、ゼノイドたちが失くしてしまったもの。
ゼノイドに生まれながら感情を持ってしまったアルツは、ナユキとの出会いを通じて、少しずつ人間の感情というものを知っていきます。
アルツとナユキとのどこかずれたやりとりが微笑ましいですね。自分の中の感情が何か分からずに持て余し、困惑するアルツの姿は、とても人間らしく見えました。
自分だけが感情を持つ都市で生きるなんて、さぞ辛いことと思います。その「ラグ」を捨てなければ、エレベーターさえ動かせないというのですから徹底したものです。
自分の感情を受け入れてくれるナユキと出会えて、アルツはどれほど救われたことでしょうか。色々な意味で、この出会いは運命的でしたね。


「物理法則? なにそれ?」と言わんばかりのゼストマーグの戦いぶりが気持ちいい。
人間の感情がエネルギーになっているというのがまたいいですよね。技名を叫ぶ理由付けもバッチリ。これでこそ巨大ロボットのパイロットというもの!
ゼストマーグは複数人で操縦するロボットですが、ひとり乗りよりも仲間同士の絆が感じられていいですよね。留美からナユキへと受け継がれた、「ゼストが二人乗りの理由」も素敵でした。
誰かを守るために、というのは、古今東西のヒーローの鉄則ですけれども、まっすぐにそれを描かれると、胸が熱くなるのを抑えられないものですね。
ただひとつだけ気になったことが。役割上仕方ないとはいえ、ゼスト操縦時はアルツの影が薄くなりがちだったように思います。操縦の腕にしろ、何らかのイデアの発現にしろ、今後は彼のさらなる活躍に期待したいですね。


アルツの過去の秘密、黒幕めいた人物の影、ゼノイドに目覚めはじめた感情など、心配ごとはまだまだたくさん残っています。
アルツ、ナユキ、ミーネ、そしてリステル。4人の乗り手たちは、人々を守り、世界を救うことができるのでしょうか。
あとがきでは次回予告までしっかり決めてくれていたので、次の巻もわくわくしながら待ちたいと思います。楽しみですね。


イラストは黒銀さん。ゼストマーグが格好良い!
見開きページも迫力があって良かったです。ギャグシーンのイラストでも絵柄を安定させてくれるともっと嬉しいですね。設定的にも「みかん」はちょっと……(苦笑)。


さて、アニメ化発表はまだですか?