まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

ゴールデンタイム外伝 二次元くんスペシャル

ストーリー
三次元に絶望し、二次元くんの異名を付けられた大学一年生、佐藤隆哉。
大学でも三次元の女は完全スルー、VJと名付けた脳内嫁と対話しながら、毎日を楽しく過ごしていた。
ところがそんな彼の前に、中学時代の後輩だった美少女・秋が、思わせぶりな距離感で現れて……。



本編なら喜んで読むけれど、外伝で、しかも主人公もどうでもいい部類に入るモブキャラの二次元くんで、正直あんまり読む気にならなかったのですが、ひとたびページをめくり始めるとこれがまた面白くて面白くてたまらないから、竹宮ゆゆこ先生はやっぱすげえ! たらこスパすげえ! もう土下座しかない。すみませんでした!
本編の方では、万里の友人として多少絡むけれども、やなっさんほどではない二次元くん。
二次元好きという設定はあれど、とりたてて変わったことをしでかすわけでもなく(万里ややなっさんの方がよっぽど異常行動に定評がある)、いてもいなくてもそんなに影響はないんじゃないかとさえ思っていたのに。
そんなキャラクターを、1冊の外伝の主人公に仕立てあげて、しかも万里や香子たち本編レギュラーをほとんど出さずに、これだけ読ませる物語を作り出してしまうというのは、まったくもってお見事という他ありません。


凶暴な姉の存在や、過去のちょっとした出来事のせいで、三次元女性に夢を見ることができなくなってしまった哀しき青少年・隆哉。
リアルの女の子を好きになることができないのなら、二次元に逃げよう! そこまではまだ理解できるけれど、既存のキャラクターに満足できず、自分で自らの好みの脳内嫁を一から創りだし、日常的に会話をこなしているとなると……フッ、こいつはなかなかのハイランカーだぜ(冷や汗)。
設定こそ、どこかで聞いたようなものを組み合わせているとはいえ、それでひとりのキャラクターを形作って、会話ができるほどにその設定を練り込んでいるというのは、かなり凄いことなのではないかと思います。
だって、自分の中にもうひとつの人格を作っちゃったようなものですよ。もしかしたら二次元くん、大変な才能の持ち主なのかもしれません。小説だって書き上げてましたもんね。


そんな残念な天才の前に出没してくるのが、魔性の異名を取る悪魔的ヒロイン・秋と、同じオタク仲間にして同人作家ヒロイン・愛可。
愛可とのあれこれは、ちょっとBでLなアレが入ってくる程度で健全も健全ですからいいとして、問題は秋の方ですよ。なんなんだこのヒロインは!
ひとつ年下で、かつての後輩。でもあの頃からはすっかり変貌を遂げ、健全とかピュアとか、そういったものからはかけ離れてしまっている。
夜の街を出歩いたり、危なげな男と一緒にいたり、かと思いきや隆哉に思わせぶりな態度を取ってきたり、いやもう、わけが分かりません。
でもなぜか、本当になぜなのか、困ったことに、目が離せないのです。彼女のあやうさはそのまま色気へと変わり、立ち込めるフェロモンにもし捕らえられれば、頭の中は彼女のことでいっぱいになって、もはや逃げることは叶わない。まるで毒蜘蛛のようなその魅力。弄ばれたい。


秋、愛可、そして脳内嫁・VJとの間、すなわち三次元と二次元の間で、頭を抱えてぐるぐると悩み、自分の生き方や、やりたいことを見つめなおしていく隆哉は、どうにも不器用だけれど憎めない主人公でありました。
気になっている女の子の何気ないひと言で、何日も何日もモヤモヤじたばた苦しみ悶えてしまうその気持ち、わかる、わかるぞ二次元くん!
結局のところ、二次元くんが逃げることをやめて、素直にぶつかっていくまでの過程を描いたお話でしたが、予想外にニヤッとできる終わりを迎えてくれて良かったと思います。
愛可の作家としての強い思いや、鬼姉・舞の格好良さなど、キャラたちの素敵な一面もたくさん見られて満足満足。
二次元くんの物語としてはおそらくこれで大団円なのでしょうが、いつかどこかの短編か何かで、ひょっこりと秋や愛可の姿が見られたら嬉しいですね。


元からあまりイラストの多い作品ではないので、まあそれはいいんですが、最後の秋の体型はちょっと、いやだいぶ、怪しいような……。