まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

愚者のエンドロール

愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

ストーリー
千反田に連れられ、2年生がクラス制作した自主映画の試写会に参加した古典部一同。
ところがそのミステリー映画は解決編に入る前に終わっていて、その後の脚本が分からないため先が作れないという。
興味を持った千反田たちに押され、ミステリー映画の結末探しに乗り出す奉太郎だったが……。



ああ、これは面白かった! 「氷菓」とは違ってひとつの事件(?)をずっと追いかける形のお話ですが、推理と種明かしが何度も繰り返して、そのたびに違った気分で楽しめるのが素晴らしい。
題材が映画で、脚本の続きを推理するということが、簡単な事件解決を超える奥深さを演出していますよね。
ただ単純に殺人事件の犯人やトリックを推理するだけでは足りない。
映画を作るときに何があったのか、本来の脚本家の目的はなんだったのか、映画内の演出に何か意味を見いだせるのか。そんなことまで考えなくては、元々の映画の脚本のオチを書くことなんてできないのですから。


奉太郎以外の“回答者”たちも、それぞれまるで違った観点から、それなりに納得のいく答えを導き出します。
真正面からミステリーを狙ってきたものもあれば、「ミステリー? それがどうしたの?」というようなものまで。無茶苦茶だけれど、それが楽しい。
ミステリーとしてはぶっ飛んだ答えであっても、お話としての筋は通せるものだから、それに反証するためには大真面目に推理して証拠を持ち出さないといけないというのがまた愉快ですね。
いや、まったく、「別にいいじゃない〜」は紛れも無い名言だったなあ。一周回って感動さえ覚える台詞ですね! これから頻繁に遣っていきたい。別にいいじゃない、ネタバレくらい(いけません)。


今回奉太郎が背負わされた役割はどう考えても探偵ではありませんでしたね。ううん、しいて言えばピエロ?
女帝によるお褒めのことばに舞い上がって調子に乗って本気出しちゃう奉太郎さんは間違いなく萌えキャラ。可愛い。
それにしても、奉太郎も含め、古典部のメンバーは、謎を解くこと自体より謎への答えに難癖をつける方が得意なのではないでしょうか。
千反田には元々その素質がありそうでしたが、里志も伊原も、法廷なら「異議あり!」と叫んでいてもおかしくない働きっぷり。
そういう意味でも、彼らをオブザーバーに仕立てあげた入須女史は慧眼でした。いや、元凶は他にいるけれども。


実は某所で、この作品に関する結構重大なネタバレを踏んでしまっておりまして、それがなければさらに楽しめたのかもしれないと思うと少々残念。
でも元はといえばそのネタバレでこのシリーズに興味を持つことができたので、結果オーライでもあります。
先を知っていても十分すぎるほどに面白かったことも確かですしね。
終盤でのどんでん返しと、絶妙な伏線回収には唸らざるを得ませんでした。やっぱり驚かされるっていうのはいいものです。色々とわだかまっていたあれこれが、一気にすっきりする。
そしてエピローグに当たる「エンドロール」がまた! 最後のひと言に全部持っていかれました。こういうの、たまりません。
愚者のエンドロール」といい、副題の「Why didn't ask EBA?」といい、読み終わってからタイトルの意味に気付かされたときのこの気持ち、何と表現しましょうか。
最初から最後まで、読み終わってページをぱたんと閉じて、表紙をまた目にするまで、とことん作者の手の内だったなあ。
いやはや大満足です。これがアニメになってどう描かれるのか、楽しみで仕方ありません。早いところ続巻も読みたいですね。


ホームズは多少読んでいて、わりと好き嫌いが激しい方なのですが、二重丸の作品はちょっと読んでみたい。