まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

アリス・イン・ゴシックランドⅢ 吸血機ドラキュラ

ストーリー
ホワイトチャペルで発生した連続不審死事件について捜査を始めるジェレミーとイグレイン。
被害者は一様に全身の血を抜かれており、首筋に二つの傷がついていた。
一方、アリスの別人格であるジルは、自らの復讐を果たすべく残る二人の標的を狙っていて……。



とっちゃん坊やの刑事とホームズの妹、そして二重人格のアリスが繰り広げる推理冒険活劇、3巻目にしてまさかまさかの最終巻。
早すぎる! とも思いますが、1巻ごとにこれだけネタを詰め込んで長く続けるのはやっぱり大変だったのかなあ。
「ウン百万」費やしたという取材・資料のおかげか、最後まで見事な完成度でした。実際にホームズの世界・19世紀ロンドンに迷い込んだようなこの感覚と、これでもかとばかりに出てくる伝説的人物たち。この溢れる楽しさは、確かな資料集めの元に成り立っていたのですね。
どこまで実際の歴史や伝説で、どこからがオリジナルなのか分からなくて、元ネタを探して何度もgoogle先生に頼りました。いつか完全解説集を出してください、ケイトさん。


タイトル通り、最後の敵はドラキュラ伯爵。言わずと知れた怪奇小説の大ヒーローですね。
ロンドンの裏道で繰り返される不審死、起き上がる死体、謎めいた東欧の紳士。お約束の展開がずらりと並んでいますが、だからこそワクワクせずにはいられません。
ドラキュラの他にも、あのSF作家や、あの有名スパイなど、名だたる人物が次々に登場。
「分かる人だけ楽しんでくれればいいよ」とばかりに、あくまでさらりと出してくるのが実に粋だと思います。
1巻と2巻で出てきたキャラも再び顔を見せて、どこを見ても有名人だらけのお祭り騒ぎ。もう楽しくて仕方ない。
超能力だの超科学兵器だの色々と無茶苦茶やっているのに、行動自体はそれなりにその人らしいから面白いんですよね。
最終的には、今まで頑なに姿を見せなかったあのコンビも、少しだけですが舞台へ上がってくれました。読者へのおいしいオマケですね。


ダークヒーロー・ジルが大活躍。アリスも可愛いけれど、やっぱりジルに危険な魅力を感じてしまいます。
ジェレミーにあんなことをしてしまうほどに追い詰められていたのかと思うと胸が痛みますね。
しかしながら、悪役の影に隠れているとはいえ、彼女も立派な殺人鬼です。孤独に生きるのは、ある意味当然のこと。
それだけに、何をされても彼女のことを守り続けようとするジェレミーの存在は貴重でした。
警察という組織の中にいながら、自分の信念のもとに動くことのできるジェレミーは悔しいけれど格好良かったです。これで、鼻持ちならない貴族っぽささえなければねえ。
一方、イグレインの方もさすがのヒロインっぷりでした。これがメインヒロインの貫禄というものか。
ジェレミーとの関係がなんともくすぐったい。恋人とは言い切れないけれど、限りなくそれに近い、絶妙なさじ加減がたまりません。
自分はポリー他あらゆる女の子に目移りしているくせして、イグレインがちょっと違う男性に目を向けただけで不機嫌になるジェレミーの自分勝手さが子供っぽくて笑ってしまいます。
恋愛でだけではなく、推理やバトルのパートナーとしても息ぴったり。背中合わせで戦うのってロマンですよね……!


どこを見ても遊び心が詰まっていて、最初から最後まで楽しませてくれた作品でした。これで終わってしまうのが本当に寂しい。
まだ、アリス=ジルの問題は全て解決したとは言えないけれど、この先の彼女の幸せを願って、ページを閉じることとしましょう。
もちろんジェレミーとイグレインもね。彼らに関しては、祈らずともハッピーエンドを迎えてくれることでしょうけれどね。
改めて、この作品と出会えたことに感謝を。イラストも素晴らしかったです。ありがとうございました。


英語版が出たら読みたい。