まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

全滅なう

全滅なう (一迅社文庫)

全滅なう (一迅社文庫)

ストーリー
優等生で学校でも評判の天川立己は、不登校の大日向夕鶴子を登校させようと画策する。
立己の説得の甲斐あって学校に通い始め、次第に他のクラスメイトとも打ち解けていく夕鶴子。
そんな夕鶴子に知らず惹かれていく立己だったが、彼女にはとある秘密があって……。



買ったのにすぐ読まなかったのを後悔。大変好みのお話でした。
初めての恋に悶え、悩み、苦しみながらも、一度気付いたらもう止まらない、青春の日々の甘酸っぱさがたまりません。
単純に恋愛ものとしても素晴らしいのですが、それだけで終わらず、少し奇妙な成分を入れ込んでくるあたりに、作者らしさが表れていたかなあと思います。
ああ、ちなみに、Twitterの成分は全くありませんでした。ほんの少しだけ期待してたんですけどね。


主人公の立己は、勉強熱心で向上意欲のある、その上で誰にでも優しくて交友関係の広い、絵に描いたような優等生。
そんな彼が、自分の評価を高めるために、不登校の少女・夕鶴子を迎えに行く場面から、物語が始まります。
このあたりの立己は、キャッチセールスかと見まごうばかりのトークスキルを披露していて、始まっていきなり、こいつただ者じゃないなと思わされました。出会ってすぐに褒め殺しとか、とても15歳の少年のやることとは思えません。
さらに、大日向家の怪しげな住人を目にする立己。本人は目の錯覚とわり切っていたけれど、読んでいるこちらとしては、ああ、このお話もただの学園ものじゃないなと、不可思議な何かが絡んでくるのだなと、早くも気付くわけです。
そして何より、人馴れしていない夕鶴子の可愛らしさと、立己に芽生える謎の感情。
今思ってみれば、この出会いの場面からすでに、物語にぐぐっと引き込まれる要素がばっちり詰め込まれていたんですね。
主人公のことも、ヒロインのことも、謎も、恋も、全てが気になって、いつの間にかどんどん先へと読み進めていました。


上にも書きましたけれども、初恋の描き方が本当に素晴らしかったです。
今まで一度も恋をしたことがないという驚きの経歴を持つ立己は、自分では、自らの気持ちがそれなのだと気付くのにひどく時間がかかりましたが、ずいぶん早いときからもう、夕鶴子に恋をしていたように思います。
ふと気付けば授業中でも目で追っていたり、家でぼそっと名前をつぶやいてみたり、四六時中その子のことを考えて眠れなくなってしまったり。
初恋というのは、本当に痛くて、もどかしくて、ぎゅっと胸がつまるような、こんな感じだよなあと思い、立己と一緒になって、夕鶴子が見せる言動ひとつひとつにじたばたしながら読みました。
いやあ、公式のあらすじでも言われていますが、この感覚は確かにくせになりそう。心がきゅんきゅんうなって止みません。


立己も悩んでいたけれど、夕鶴子も同じく悩みを抱えていて、お互いにことばに出せずに、すれ違ってしまったふたり。
夕鶴子はきっと、自分があまりに特殊すぎるために、初めからずっと悩んでいたのでしょうね。
そんなすれ違いから、流れるように迎えた終わりは、ちょっと唐突で、でも幸福感に満ちていました。
ああ、いいお話でした。この素敵な恋に、そしてふたりの未来に乾杯。続き待ってます。


イラストはま@やさん。夕鶴子さんの表情がいちいち可愛い。振り返って見上げる1枚が特に好きです。これはずるいだろ!
あと、チカラくんが予想以上に魚類でした。うぎょっ。


終盤まで分からなかったけれど、舞台は北の大都市ですかね。