まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

舞面真面とお面の女

舞面真面とお面の女 (メディアワークス文庫)

舞面真面とお面の女 (メディアワークス文庫)

ストーリー
工学部の大学院生・舞面真面は、ある年の暮れに叔父からの呼び出しを受け、山中の邸宅に赴く。
そこで頼まれたこととは、真面の曽祖父であり、財閥の長だった男、舞面彼面が残した遺言の解明だった。
従姉妹の水面とともに謎に挑んでいく真面だったが、そんな彼らの前に不思議な面をつけた少女が現れて……。



野崎まど先生のデビュー2作目。これだけずっと読めていなかったのですが、ようやく機会を得ました。
面白かったです。これといったことが何も起こらない序盤、どこかに少し違和感を覚える中盤、事件が予想外の結末を見せる終盤、そして全てがひっくり返るエピローグ。この構成はもはや様式美でしょう。


主人公の真面(まとも)は大学院生。ひとつ下の従姉妹、水面(みなも)と共に、かつて存在した財閥の長である曽祖父が残した遺言の謎を解いていきます。
「箱を解き 石を解き 面を解け / よきものが待っている」との詩のような文言と、怪しげな金属でできた「心の箱」、古くから屋敷の敷地に存在する「体の石」。
箱にも石にも特に仕掛けは見当たらなくて、かと言ってヒントとなるであろう詩にも具体的なことは何も書かれていない。
そんな五里霧中の状態からでも、重さから箱の材質を推定したり、X線撮影に回したりと、手がかりを見つけるために色々な角度から調べようとする真面の考え方は、工学部の院生だけあってと言うべきか、科学的で面白いと思いました。


お面の女が出てきてからは、雰囲気ががらりと変わります。
真面の現実的で論理的な思考をあざ笑うかのような、オカルトじみた不気味な流れ。そうそう、こうでなくっちゃあ。
現実の中にふと異常なものが割り込んでくる気持ち悪さの表現が絶妙だと思うんですよね。直接何かが起こるのではないのだけれど、どうにも居心地が悪いという。
その何かが今すぐ起こってきそうで、でも起こらなくて、そんな中で水面やみさきとの楽しげな日々が描かれるものだから、背中のどこかに刺さった棘をそのままにして生活するような、落ち着かない感じがあるんです。
とはいえ、今回はわりとソフトな方だった気もしますね。いつもに比べると生理的な嫌悪感が弱かったように思います。
その分すいすいと読み進めることができましたが、少しの物足りなさもなかったといえば嘘になるかな。
ああ、水面たちとの会話劇は毎度ながら面白かったです。真面の冷静なモノローグツッコミがいい。


謎が遂に解けて、なるほどなあと思っていたらこれですよ。はっはっは! ああおかしい。
20数ページのエピローグで、よくもまあこれだけ。無茶苦茶なひっくり返し方じゃなくて、実は伏線が張られていたことが分かるから余計に楽しい悔しい。ちくしょうめ。
得体の知れないものがふたつもうごめく恐ろしさ。三隅はまったく不憫ですが、これはこれで他人にはなかなか味わえないエキサイティングな人生なんじゃないですかね。
素敵で気持ちの悪いハッピーエンドでした。水面のことが気になるけれど、まあそこは想像のままに、ということで。


お手伝いの熊さんが地味に好き。脇役とは思えないキャラの濃さですね。