まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

六花の勇者

六花の勇者 (六花の勇者シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

六花の勇者 (六花の勇者シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

  • ストーリー

闇の底から「魔神」が目覚めるとき、運命の神は六人の勇者を選び出し、世界を救う力を授けるという。
地上最強を自称する少年アドレットは、その六人、「六花の勇者」に選ばれ、魔神復活を阻止するため、戦いへ向かう。
だが、約束の地に集った勇者はなぜか七人。一行は、中にひとり敵が紛れていることを知る……。


Twitterの評判を見て手に取りました。文句なしに面白かったです。
勇者というファンタジーの王道を扱いながら、ミステリーやサスペンスの風味が合わさっていて、バトルに謎解きにと、ずっと手に汗握りっぱなしでした。
先が気になって気になって、本当にページをめくる手が止まらないんです。寝るのも忘れて一気に読んでしまいました。


魔物から世界を救う六人の勇者。選ばれた者には体のどこかに六花の紋章が現れる。
ところが、集合した紋章もちの勇者は七人。アドレット、ナッシェタニア、フレミー、ゴルドフ、チャモ、ハンス、モーラ。
七人のうちひとりは偽物で、勇者たちを罠にかけ、森の結界に閉じ込めたのです。
最大の問題は、誰が偽物なのかということ。
七人の勇者たちは、怪しいと思われる者を片っ端から疑い、問い詰め、挙句殺し合いへと発展します。
目的の魔物と戦う前に勇者同士で戦ってしまっているんだから、もうこの時点でおかしいですよね。
勇者といっても清純で潔白な人間ばかりではなく、いざとなったら汚い手もためらわない勇者や、自分のことしか考えていないような勇者もいて、それぞれの信念や思惑が入り乱れ、実に複雑な人間模様が描かれていました。
誰かが信用できると思っても、次の瞬間怪しい言動を取っていたり、明らかに偽者だと思っていた人物が、さらに怪しい人物を告発したり。
誰が勇者で、誰が偽者なのか。容疑者さえも目まぐるしく入れ替わって、容易には尻尾をつかませてくれません。
主人公はアドレットなのですが、もしかしたら読者が知らないだけで、アドレットが裏切り者なのかも、とさえ思ってしまう。
それくらいに場は混沌としていて、予想しては外れ、また予想しては外れ、と、思い切り騙され続けるのがなんとも心地よくて、楽しいですね。


七人の勇者たちはそれぞれ優れた力と個性的な性格で魅力に溢れていますが、中でも飛び抜けているのはやはりアドレット。
他の勇者のような天才とは違い、純粋な格闘が得意なわけでも、特殊な能力が使えるわけでもない。
しかしそんな彼が、目眩ましや毒針、隠し武器などを駆使して、格上の相手と互角に戦うさまはなかなか格好良い。
そもそも、他の六人の勇者に疑われ、追われながらも、諦めずに真実を見つけ出そうと戦っていけるのだから、その凄さも十分に分かろうというものです。
口癖の「地上最強」、これがまたいいですね。初めのうちこそ、こいつのどこが地上最強なんだと思っていたけれど、窮地に立たされたときにそのことばの本領が発揮されました。
追いつめられてまだ笑える、前を向ける精神の強さ、ここぞというところでの決断力と勇気。
そういう面で、やっぱりアドレットは主人公にふさわしかったのだなあと思います。
そしてもうひとつ、フレミーとのやりとりにも注目ですね。頑ななフレミーと、彼女の心を解きほぐそうと必死になるアドレットのコンビは、この殺伐とした雰囲気の中で、ちょっとした清涼剤になってくれています。


最後まで油断のならない展開に心臓バクバク、背すじゾクゾク。ああ面白かった。後味は決していいとは言えないけど!
謎がひとつ明らかになったと思いきや、落ち着く間もなく次の謎がやってきました。
さてさて、期限は刻々と迫ってきているわけですが、彼らが魔神を倒すのはいつになることやら。
次はこの謎を解いていくのでしょうか。それとも先へ進むのでしょうか。どちらにせよ楽しみです。待ち遠しい。


イラストは宮城さん。表紙を初め、カラーイラストがとてもいいですね。
水彩調がちょっとミステリアスで、作品によく合っていると思います。


今から思えばヒントはいくつも隠されていたのですね。途中で気付いた人はいるのかな。