まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

ランジーン×コード tale.3.5 コトモノたちの夏休み

ランジーン×コード tale.3.5 (このライトノベルがすごい!文庫)

ランジーン×コード tale.3.5 (このライトノベルがすごい!文庫)

  • ストーリー

同居人に泣きつかれ嫌々やってきたプールで、“くるみの家”の子供たちに出会ったデカルト
猫らしくごろごろするつもりだったのだが、人懐っこい由沙美に誘われて子供たちと一緒に遊ぶことに。
ところが、そこに偶然現れたシルヴィの挑発を受けて由沙美の態度が豹変し……。


初の短編集です。本編とは少しノリを変えたドタバタや過去編などもあって盛りだくさんの1冊。
この作品はとにかく多彩なキャラが登場するので、短編集には合ってると思うんですよね。毎回別のコトモノが出てきて飽きませんでした。
短いお話だからでしょうか、今までより格段に読みやすくなっていたのも良かったです。
第二話や第四話は、忘れかけていた1巻の内容の補足にもなっていてありがたかったですね。


第一話は<人形遣いデカルトがプールで由沙美たちと戯れるお話。
デカルトの視点で描かれた周りの世界が独特で興味深いですね。
自分では自らを手元で操っている猫だと思い込んでいるから水に入ってもなんとも感じないのだけれど、背後に水をかけられるとなぜか涼しくなる、なんていうコトモノならではの認識のずれが楽しいです。
由沙美は安定の可愛らしさ。本人がいないからなのか、ロゴへの気持ちを存分に吐き出したりシルヴィに嫉妬したりと、恋する女の子モード全開でした。
イラストでは水着もしっかりと披露してくれて本当にありがとうございます! ごちそうさまです!
まだ小学生? 何を言っているんですか。可愛ければそれが全てです。そうでしょう?
しかし最後にもうひとつ、あんな爆弾が待ち受けているなんてなあ……。
ぜひいつかイラストでとも思ったけれど、この人にそれを求めるのは野暮というものか。


第二話は福地警部と不破という渋いコンビが、とあるドラッグの捜査に乗り出すお話。
いやあ凄い。何が凄いってメインキャラがおじさん2人。あの暑く眩しい夏はどこへ消え去ったのでしょう。
とはいえ、コトモノを追いながらまるで考え方の違う両者の対比は面白かったし、コトモノの間に蔓延するドラッグという発想にはなるほどと思いました。
これ見よがしに憎まれ口を叩く警部とそれを笑いながら受け流す不破はなかなかいい相性だったと思うのですが、これからもふたりが関わっていくことはあるんですかね。


第三話は<くるみの家>のみんながロゴの誕生日を祝うお話。
視点はキツネです。いつも思うけれど、文章から逐一「た」を消す作業には結構神経を使いそう。
ロゴへの想いはうっすら透けて見えますが、それを全部反発にして表に出してしまうキツネはほんと、素直じゃないですね。
ロゴとキツネのやりとりには、ロゴと由沙美の間のものとはまた少し違う温かさがあって、これはやっぱり幼なじみヒロインならではの空気だなあ、なんて思います。


第四話は成美があの事件を起こすきっかけを描いた過去のお話。
色んなものから逃げてやっとの思いで落ち着ける場所にたどり着き、少しずつ明るさを取り戻しつつあった成美。
でも最終的に彼女はゼムトと事件を起こすわけで、この幸せにさえ見える状況がどんな風に崩れ去って、あそこまで追いつめられてしまうのかと、読みながら緊張でいっぱいでした。
結局それは起こってしまい、成美がゼムトに心を許したときには、思わず背筋が震えました。
これで成美による惨劇の幕が開けたのだと思うと、なんともやるせない気持ちにさせられます。
そしてラスト。まさかの動きがありました。次に彼女に振りかかるのも、以前のような悲劇なのでしょうか。そうではないことを祈りたいものです。
そう、ロゴの母親のこともありましたね。彼女たちがどんな風にロゴや由沙美と関わってくるのか、不安ながらも楽しみです。


なるほど、作者で取材をしてきたと、そういうことですか。プリーズテイカピクチャー!