まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『限界超えの天賦は転生者にしか扱えない1 ―オーバーリミット・スキルホルダー―』感想

限界超えの天賦は、転生者にしか扱えない 1 -オーバーリミット・スキルホルダー- (ファンタジア文庫)

ストーリー
異世界転生した少年・レイジ。しかし黒髪・黒目の彼は人々から忌み嫌われ、行き着いた先は炭鉱発掘の奴隷だった。劣悪の環境下で唯一の味方は彼を弟のように扱ってくれる金髪の少女・ラルクのみ。「アンタの黒髪と黒目、あたしは好きだなぁ」彼女と一緒にいられるだけで幸せだった。しかし、落盤事故が発生しラルクと離れ離れになってしまう。命の危機に瀕した彼だったが、彼の前に現れたのは転生した者しか扱うことができない【森羅万象】の能力だった。それは世界の理を理解、世界すらも統べることができるもの―――。誰よりも大切な少女に再び出会うため、彼の冒険が始動する!

決して無敵ではない少年の旅立ち
鉱山で奴隷として働く少年が転生者にしか扱うことのできない伝説的スキルを手に入れ、生き別れた少女を探す旅に出るバトルファンジー
奴隷の少年少女、剣や魔法といったスキルの数々、獣人やハーフリングといった種族、そして凶悪な竜。ストレートでワクワクするファンタジーの幕開けを感じさせてくれる第1巻でした。
破格ではあるけれども決して無敵ではないスキルを持った主人公が、四苦八苦しつつも着実に強くなっていく展開に燃えます。


穴蔵に潜り、人に多種多様な能力を与えてくれるスキルオーブを発掘することを生業としている奴隷の少年と、唯一の友人で姉代わりの少女ラルク
ある時鉱山が崩落を起こし、ラルクとも離れてしまった少年は、スキル枠を10も使うスキルオーブを発見してしまう。普通の人々はスキル枠が8しかないが、彼は転生者だったため枠が倍の16あり、そのスキルオーブを扱うことができたのだった……!
ということで前世の記憶を思い出した主人公・レイジ。そのスキル【森羅万象】は知覚したものの情報を知ることができ、また目にしたスキルを劣化コピーすることができるというもの。
確かにとんでもないスキルであることは間違いないのだけれど、他人を見てコピーしたスキルを使ったらやたら疲れてしまったり、魔法を使ってみたら魔力切れを起こしたりと、必ずしも万能というわけではなく。
助けたいと思った人を助けられなかったり、追ってくる兵士からは逃げ回るしかなかったり、最強のスキルを持っているわりにはレイジの旅立ちはわりと泥臭くて、そこがいい味わいを生んでいます。派手すぎず、でも地味すぎない、このバランス感覚がさすがだ。


孤独だったレイジを快く受け入れてくれた冒険者パーティーとの運命の出会い。
ヒトから疎まれているハーフリングや獣人や、石化の呪いをかけられた戦士。世間からはじき出された彼らだからこそ、「災厄の子」として扱われてきたレイジへの差別心などというものもなくて。
20歳のわりに少女のように見える可憐で世話好きのミミィ、包容力に溢れた父親のような戦士ダンテス、ちょっと謎でとぼけたところが魅力的なノン、分かりやすいツンデレ獣人のライキラ。家族のような温かみのあるメンバーとの旅の日々にほっこりしました。個人的にはやっぱりミミィ推しかな……ちっちゃ可愛いお姉さん(方言付き)ええやん……。
パーティーで立ち寄った街で、突如迫る危機。最初のボスが竜とはまた飛ばしてんなあと思いましたが、実際レイジにできることはほとんどありませんでした。
でも、戦いから逃げるように言われて、一度はそれに従ったけれども、最後の大きな分岐点で振り返ることのできたレイジの姿は立派に冒険者していたと思います。
救えたものと救えなかったもの。切ない別れと新たな出会い。歩みだした10歳の少年の前にはどんな未知が広がっているのか。続きを楽しみにしています。web版は結構先まで更新されているみたいだけれど、ぐっと我慢して書籍版で追いかけたいと思います。


イラストは大槍葦人さん。細やかなキャラクターデザインといい迫力と躍動感のあるバトルシーンといいお見事の一言。
ちょいちょい本文の描写とキャラクターの髪の色が合っていないあたりはご愛嬌。


このあとがきは名文。ファンタジー、好きやで。

『王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語』感想

王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語 (メディアワークス文庫)

ストーリー
王立士官学校≪黒の門≫。全土から集まる優秀な生徒たちの中に華奢な美少年が一人。イェレミアス・リーヴライン――真の名はアリシアという。その正体は少女だった。アリシアは入学早々、有力子弟の一派に目を付けられてしまう。立身出世が約束される学園生活。正体を隠しつつ無事卒業しなくてはならない。だが彼女にも心強い仲間が。常に寄り添う従者ジークハルトに、腕の立つ少年ユスフ。そして彼女自身にも秘めた才能があって? 陰謀渦巻く壮大な学園ストーリー開幕!

mizunotoriさん(mizunotori (@mizunotori) | Twitter)の評に惹かれて読みました。
故郷での内乱を勝利に勝利に導いた才を持ちながらそれを失ってしまった少女が、性別を偽って敵だらけの学園へと入学するファンタジー
なかなか読み応えのある物語でした! 誰よりも格上の才能を秘めているはずなのに読者にすら見せてくれない主人公の姿には散々やきもきさせられましたが、だからこそいざ本領を発揮した際の痛快さたるや素晴らしい。
二歩進んで一歩下がるようなじれったさがありつつも、今後の主人公の活躍に胸踊らせずにはいられない期待感たっぷりの一作でした。


故郷ランス島を二分した内乱で、異母兄率いる軍を勝利へと誘った少女アリシア。しかし彼女は内乱の際に父母を失った衝撃でその才覚を失い、戦いの場で怯えるようになってしまう……。
王家に対する人質として、性別を偽り王都にある士官学校に入学することになったアリシアだけれど、故郷を出てもその臆病さは変わらず、頼りは腹心の従者ジークハルトのみ。
入学していきなりの模擬試合でも震えてしまって落第者の烙印を受け、王都のエリート貴族からは田舎者と揶揄され、王家に楯突く家の者と蔑まれ、どれだけ言われてもアリシアは立ち向かうことができず、なかなかストレスの溜まる展開が続きました。


一方で彼女の周りにも数は少ないながら有能な仲間が。
まずなんといっても従者ジークがいいですね。ランス島では執政官を担っていた逸材でありながらアリシアにとっては気のおけない幼馴染で、周囲からどんなに言われようともアリシアの才能を信じて疑わないそのまっすぐな姿勢が好印象。
それから名門の次男坊ながらなぜかランス島主従を気にかける山高帽の伊達者・ユスフ。ジークとの一方通行なやりとりが楽しいですね。軽薄なようで戦いの場になると驚くべき強さを発揮してくれるのもギャップがあっていい。彼はアリシアが女性だとは知らないのだけれど、ちょいちょい「イェレミアス」に目を奪われたりしていてニヤリとします。
仲間だけでなく、学園におけるアリシアの敵や、敵か味方か分からない立場のキャラクターにもそれなりに魅力があります。
確固たるエリート意識のもとにアリシアを退場させようとする学年代表格のヘルムート。学園でも珍しい女性にして凄まじい知識量を誇る才女カサンドラ。無口な山の民の男スヴェン。王都で最高の名声を集める謎めいた天才バトゥ。
皆が自分の信念と目的を持ち、派閥に所属したり陰謀を巡らせたりする中で、そのほとんどがアリシアのことを臆病者の無能と思い込み、そしてそれはほとんどの場面でその通りなのだけれど、最後の最後でその判断は覆されることになる。
あるタイミングをきっかけに当時の才能を取り戻したアリシアが、その知略とカリスマで圧倒的不利を覆す最終章の気持ちよさ。ここまで我慢に我慢を強いられてきただけに、爆発するカタルシスがありました。
ここから少女がさらに羽ばたいてゆくのか、それとも再び失速してしまうのか。ランス島に残る兄イェレミアスはどう動くのか。そして「英雄」とは誰なのか。続きが気になる。


地図だ、地図をくれ、地図を……(地図に飢えるファンタジー読み)。

『十三歳の誕生日、皇后になりました。4』感想

十三歳の誕生日、皇后になりました。4 (ビーズログ文庫)

ストーリー
「――誰も私のことを見てくれない」
そんな思いを抱える人の希望になればいいと後宮にお手紙箱を設置した莉杏。女官採用試験で起きた疑惑や、夜中の幽霊騒動など新たな難問に挑むことになるが、がんばる妻を暁月はさりげなく助け、見守ってくれる。そんななか、莉杏の食べた月餅に皿の欠片が混入! さらに「命、狙われています」と怪文書が届き!?

優しき十三歳のお手紙箱
莉杏、めっちゃ出来る子ーーーーーっ!!!!!
もともと健気でがんばり屋さんで心優しい少女だったけれど、巻を追うごとにその聡明さが際立ってきていて成長ぶりがすごい……十三歳にして「できる上司」感さえ漂っている……。
莉杏の一途な恋はもとより、暁月の方もなんだかんだで莉杏への愛情が順調に育ちつつあるようで、ニマニマしながら読みましたよ!!


新しい女官を採用するための試験で、候補者たちの不正を偶然知ってしまった莉杏。
ここで声高に不正を暴いてみせて、褒めてもらおうなんて普通の子どもだったら考えそうなところ、皇后の自覚が芽生えてきた莉杏は違います。
自分が子どもだという事実を利用して、それとなく周囲に疑念をもたせるように仕向けていき、最終的には他の人の口から不正を暴いてもらう、この手腕にはちょっとびっくりしました。もちろん暁月にヒントをもらってのことだけれど、あのヒントからこのやり方を思いついて実行してみせる能力がすごい。そのポテンシャルたるや、ちょっと計り知れないものがありますね……。暁月が後宮のことを莉杏に任せる気になったのにも納得です。
幽霊騒動のことを知ってしまったときの、女官長への気遣い力もえげつない。ええぇー、聡明なだけじゃなくて空気まで読めちゃうのー!? 三十路のワイより全然大人やんけ……(笑)。


楽しい収穫祭の裏でうごめく権力闘争。内乱が終わって平和になったと思っても、まだ身内に命を狙われているなんて、本当に莉杏も暁月も大変な立場にいるのだなあと改めて思います。
暁月による「狩り」のはずが、偶然が重なった結果逆に拉致されてしまう莉杏たち。
命の危機が迫る状況でも冴える莉杏の知恵。莉杏にしてはちょっとダーティーなアイディアだったのがまた新たな魅力発見という感じでたまらん……あ、もう莉杏が何やっても好きなやつだわこれ。好きすぎて全肯定のやつだわ。
もちろん、囚われの姫君を助けにくるのは我らがヒーロー。わかってるのに、わかってるのにときめいちゃいますね!!
暁月ときたら、視察にかこつけて莉杏をデートに誘っちゃったりなんかして、だんだん満更でもなくなってきちゃったなこの野郎! たっぷり甘々な毎日を過ごしやがれこの野郎!!


彩可、わりと推せるので再登場願います。