まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『Hello,Hello and Hello』感想

Hello,Hello and Hello (電撃文庫)

Hello,Hello and Hello (電撃文庫)

ストーリー
「ねえ、由くん。わたしはあなたが――」
初めて聞いたその声に足を止める。学校からの帰り道。中学のグラウンドや、駅前の本屋。それから白い猫が眠る空き地の中で、なぜだか僕のことを知っている不思議な少女・椎名由希は、いつもそんな風に声をかけてきた。笑って、泣いて、怒って、手を繋いで。僕たちは何度も、消えていく思い出を、どこにも存在しない約束を重ねていく。だから、僕は何も知らなかったんだ。由希が浮かべた笑顔の価値も、零した涙の意味も。たくさんの「初めまして」に込められた、たった一つの想いすら。これは残酷なまでに切なく、心を捉えて離さない、出会いと別れの物語。

第24回電撃小説大賞<金賞>受賞作品。
一週間しかこの世界に痕跡を残すことのできない少女が、一週間ごとに自分のことを忘れる少年と何度も何度も出逢い続ける切なさ満点のラブストーリー。
これはもう、設定がずるいよ。胸がぎゅうううっとなっちゃうもの。世界からはじき出されてしまった少女の精一杯の恋物語、堪能しました。


見ず知らずの女の子に声をかけられ、「映画に連れて行って欲しい」と逆ナンされた少年・春由。でもそれは、その少女・由希にとっては春由との92回目の出逢いだったのです……。
うーん切ない! 一週間経つごとに、記憶だけでなく自分が世界に残した全ての痕跡が、まるで自分が存在しなかったかのように失われてしまうヒロイン。
誰よりも孤独で、誰よりも寂しい。そんな彼女に声をかけてくれた少年がいて。少女は彼を通して世界に自分を刻み込もうと決めて。
そして少女は、何度も何度も、幾度も幾度も、同じ少年への「Hello」を繰り返す。はぁー、このタイトルはそういうことか……秀逸すぎてやるせなくてため息が出ちゃう。


一週間ごとの少年と少女の日々は、どれもこれも素敵なもので。でもその思い出は由希の中にしか残らない。
自分に関する記憶も思いもリセットされる相手に対して、諦めずに百回も二百回も声をかけ続ける由希の執念の気持ちたるや、想像するに余りあります。
由希ってさあ、めちゃくちゃ素敵な女の子なんですよ。そりゃもう、春由がたった一週間で何度でも好きになってしまうくらい、小悪魔的な魅力に溢れたお姉さんで。こんな運命の下になければ、きっと大層素晴らしい恋をしたに違いなくって、でもそれが許されないこの世界の不条理が、あまりに悲しい。
いつまでもいつまでも、この楽しい地獄のような日々が続いていってしまうのかと思いましたが、とうとう運命の周回がやってきます。
春由の方は欠片も覚えていない繰り返しの日々の中で、でも本当に、由希が彼の中に残したものは何一つなかったのか。いや物理的にはそうかもしれない。記憶だって思いだって消えてしまったかもしれない。世界の理は、誰がどう見ても隙なしだ。だからこんなのは、ただの奇跡なんだ。
世界から存在を拒否された女の子が、二百回以上の恋の末にようやくつかみ取ったものなんだ。それは本当にちっぽけなもので、誰も彼もが笑顔のハッピーエンドではないかもしれないけれども、間違いなく由希にとってはハッピーエンドだった。だから、読者としては正直納得したくはないんだけれど、それでいいんだと思います。


イラストはぶーたさん。儚さ満点の由希が素敵でした。
年齢ごとに少しずつ変化しているけれど、個人的には12回目の由希が好きです。ショートかわいい。


朱音も、由希の影に隠れた悲劇のヒロインだよなあ……。