まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『僕の知らないラブコメ』感想

僕の知らないラブコメ (MF文庫J)

僕の知らないラブコメ (MF文庫J)

ストーリー
みんなは近いうちに逃げ出したくなるような嫌なことってある? あるよね、きっと。明日になっちゃえばいいのにって思うようなそんな時。僕、芦屋優太はそんな時間を早送りできる能力を手に入れたんだ。これでもう勉強や揉め事、全ての嫌な時間から逃げることができる。やったね! そうして早送りしながら日々を過ごしてたら知らないうちに彼女が出来ていた! しかも相手はあのクラスの問題児、柳戸希美だって? 僕は怯えながらも付き合い始めたんだけど、意外にも柳戸はとても優しくて、そしてとても可愛くて……。どうして柳戸はこんな僕のことを好きになってくれたんだ……? え、このラブコメ、僕だけ知らないの? 第13回MF文庫J新人賞最優秀賞受賞作!

第13回MF文庫Jライトノベル新人賞<最優秀賞>受賞作品。
あー、なんだかめっちゃ良かった。さすがは最優秀賞というべきか。
嫌なことをスキップする力のせいで、彼女との馴れ初めも、大切な思い出も、致命的な失敗の理由も、何もかも分からないままただ時だけが過ぎてしまった切なさと苦しさ。
とことん逃げてばかりだった主人公が、追い詰められてようやくだけれど前を向いて、初めて彼女のことを想う。恥ずかしいくらいまっすぐな青春学園ストーリー。


心の中で強く願うと時間をスキップしてしまうことができる。そんな夢のような能力があることに気付いてしまった主人公の芦屋。しかも飛ばした2ヶ月の間に、なぜか不良と名高い美少女と付き合ってしまってた!
いやあ怖いですね。高校1年の4月からいきなり6月に飛んじゃって、しかも知らない間に彼女ができていて、とか、なかなかにホラーじゃないですか。
しかしなんだ、ヒロインと付き合っちゃってから、その魅力を伝えていくラブコメというのもいいもんですねえ。何せ恋人ですから、存分にイチャイチャできて素晴らしい。柳戸さん、噂や見た目とのギャップが実に可愛らしいヒロインでした。


この辛い時間をスキップしたい。きっと誰しも考えたことがある妄想ですが、もしそれが現実に起こってしまったら。しかも望まない形で。
これはエグいですよ。記憶喪失モノにも通じるエグみがありますね。大切な人との時間を何一つ知らない。気付いたら物語が先に進んでる。スキップした時間の自分がいつの間にか評価されていて、でも自分自身は全然成長できていない。そして、知らない間に何かとんでもない失敗をしでかしている。
向き合うことから逃げつづけた結果とはいえ、この仕打ちはあまりに痛い。
こんなことなら、初めからスキップなんかしなかったのに! でも芦屋が持っているのは、時間を飛ばす力で、巻き戻す力じゃない。気軽に使った力の代償は、もう取り返しがつかないものばかり。
結局のところ、逃げてばかりじゃだめだった。芦屋は他の人たちに言われて、やっとそれに気付くような大間抜けでした。でもいいんです。踏み出したところからが始まりなんです。花宮はいいこと言うなあ。ここを除いてわりと余計なことばっかりしてた気がするけど(笑)。
無気力で逃げ腰で目標ミドリムシだった少年の勇姿、ぜひ多くの読者に見届けてもらいたいですね。
綺麗に終わっているのですが、どうやら続刊も予定されているようで、今後の展開がどうなっていくのか楽しみにしています。


イラストはぴょん吉さん。これが表紙力ってやつだよ! イラストはもちろん素晴らしいし、デザイナーもいい仕事するなあ……。
「あの写真」の表情が素敵すぎて胸の痛みが倍くらいになってる。


花宮がメインヒロインでオタサーの姫な外伝とかどうですか。