まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

狂気の沙汰もアイ次第

狂気の沙汰もアイ次第 (電撃文庫)

狂気の沙汰もアイ次第 (電撃文庫)

ストーリー
宇宙人により遠く離れた星まで拉致された、山口健次ほか地球の男女7人。
脱出不可能な集団生活の中で、皆に与えられる水分は「飲むと人を殺したくなる水」だけ。
殺人衝動なんて理性で抑えられると自分に言い聞かせる山口だが……。



謎の宇宙人に地球から連れ去られた男女7人が「飲むと人を殺したくなる水」しか飲み物がない中で日常生活を送るSFサスペンス。
次に誰が死ぬか分からない緊張感はもちろんのこと、理不尽な状況に置かれた登場人物たちのむき出しの感情にドギマギさせられました。
宇宙人の描き方は素晴らしかったですね。物語が進むにつれてどんどん印象が変わっていくのです。


「《アイ》を理解するため」という目的で地球人を拉致し、地球から遠く離れた星の脱出不能の施設に閉じ込めた謎の宇宙人。
主人公・健次を始めとした男女7人に与えられるのは立派な部屋に豪華な食事。しかし水分は「飲むと人を殺したくなる水」のみ。
当然、人間は水分なしでは生きられないわけで、湧き上がる殺人衝動に苦しみながらも少しずつ水を飲むしかない。
どこにも鍵のかからない館内、望めばいくらでも与えられる武器。いつ自分が誰かに殺されてもおかしくないし、逆に自分が誰かを殺してもおかしくない。いやはや、実に意地の悪い状況設定ですわ……。
この状況に対する対応も、7人でそれぞれ異なります。小さな娘を守りたいあまり他者を過剰に遠ざけようとする父親に、信頼する従姉妹とだけ一緒にいようとする女の子、飄々と一人でいる青年。
共同生活を送っているわけだから、当然仲良くなる相手も出てくる。でも一歩間違えば、そんな相手と殺し合う羽目になる。誰を犠牲に選ぶか、などという話まで現れる。
ギリギリの環境は、人間の生の姿を映し出します。目を背けたくなるけれど、でもやっぱり見ちゃう。読者であるこちらまで性格の悪さを露呈させられているようで、なんだか嫌な気分だ(笑)。


お話の最大のキーとなるのが、この状況を作り出した宇宙人・マダナイ。
このマダナイというやつが、また実にいい性格をしたキャラクターで、もうほんっとに憎たらしいったら!
さんざん地球人を弄んで、ちょっと地球に戻るためのヒントをくれたかと思ったら、それがもっと7人を追い詰める罠だったりして、最悪です。
そんな宇宙人に対して健次が取ったのは、愛を教えてやること。
憎きマダナイと夜通し話し込んだり、頭(?)を撫でてやったり、デートに繰り出したり。
果たして健次は、愛を知らぬ宇宙人に愛を教えることができるのか。結果はご一読をというところですが、いやしかしこの結末は少々予想外でした。愛の力だなあ。


イラストは麦春あやみさん。キャラクターの表情が鬼気迫っていて迫力でした。
徳島さん可愛……かったんだけど。


可愛い……かもしれない(我ながらチョロい)。