まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

いつかの空、君との魔法

いつかの空、君との魔法 (角川スニーカー文庫)

いつかの空、君との魔法 (角川スニーカー文庫)

ストーリー
精霊を遮る雲《ダスト層雲》によって空が覆われた世界。
魔法の箒に乗って精霊を街中に届ける《ヘクセ》の少年・カリムは、幼馴染みで当代随一の《ヘクセ》の少女・揺月と再会する。
しかしふたりの関係は、とある過去の事件がきっかけでぎくしゃくしてしまっていて……。



第21回スニーカー大賞<優秀賞>受賞作品。
年中雲に覆われた空の下、魔法の箒に乗った少年少女が街に精霊の力をもたらす、空と魔法の恋物語
面白かった! 細やかな情景描写によって、少し入り組んだ世界設定が実に丁寧に描き出されており、存分に物語に入り込むことができました。
正面からぶつかれなくなった幼馴染みふたりのすれ違いには胸が痛むし、不器用すぎて頭を抱えるけれど、だからこそ終盤の展開が美しい。傑作です。


精霊の力によって人々が生かされている世界。主人公・カリムは、雲の上にいる精霊を街に呼ぶために魔法の箒で空を舞う仕事「ヘクセ」の少年です。
そしてヒロインは、カリムの幼馴染みにして現役最高峰のヘクセの少女・揺月。しかしこのふたりは、小さい頃一緒に空を飛んでいたときの事故がきっかけで、関係が疎遠になってしまっているのです……。
物語は、このふたりの煮え切らない関係を軸に描かれます。
自らの失敗が起こした事故のことが許せなくて、揺月にきちんと向き合うことができず、また空高く飛ぶことにトラウマを抱えたカリム。
そんなカリムの態度と飛行に腹が立って、カリムに冷たく当たり続けてしまう揺月。
どちらかが素直になれれば話は簡単なのに、そうはならないもどかしさ。特にカリムの情けなさには呆れてしまいます。揺月からこんなに想われているのに、どうして気付くことができないんだ少年!


頼りになる先輩のレイシャや、保護者代わりの姉貴分・宮古など、周囲の素敵な人々から助言をもらい、そして何より揺月から遂に思いをぶつけられて、やっと気付くべきことに気付くことができたカリム。
ずっとすれ違い続けてきた幼馴染みふたりが、街の大きな危機に際して初めて協力する。アクロバティックなカリムの飛行と、最高クラスの揺月の魔法。このふたりだからこそできる奇跡の魔法が、それを見ている街の人々だけでなく、読んでいる私の胸もどきどきさせてくれました。
ピンチを乗り越えて、ようやく心からの気持ちを伝え合うふたり。素直になった揺月ときたらもうめちゃくちゃ可愛くて、甘酸っぱくて、きゅんきゅんしちゃいました!
どこまでも続く空を、どこまでも自由に飛んで行く、そんな広がりと爽快さを感じさせてくれる物語でした。素晴らしかったです。
単巻として完璧に終わってはいますが、もし続くようならもちろん読みたいし、また別の新作が出るようならばぜひ追いかけてみたい作者さんですね。楽しみにしています。


イラストはフライさん。うんうん、この透明感のあるイラストが印象的でいいんですよねえ。
ヒロインの泣き顔が特にグッと来るのだ。


「カリムのバカ」が最高。