まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

小説の神様

小説の神様 (講談社タイガ)

小説の神様 (講談社タイガ)

ストーリー
作家デビューしたものの、全く売上が伸びずに小説を書く意義を失いかけた高校生・千谷一也。
そんな彼の前に、同い年で美少女作家として人気の小説家・小余綾詩凪が現れる。
最悪の出会い方をした両者だが、編集者から二人で作品を書いてみないかと提案され……。



売れない高校生作家の主人公と、売れっ子作家のヒロインが、それぞれ悩み苦しみながら共同で小説を書き上げていく青春創作ストーリー。
これは凄まじい、凄まじい熱量に満ちた作家の物語だ。小説家がなぜ小説を書くのかということを、決して綺麗事だけでなく、情けない姿やみっともない姿まで赤裸々に描く。
思いっきり苦しんで、諦めて、でもその先にやっぱり夢が見えたりもして……創作というもののエネルギーを強く感じさせてくれる、非常に読み応えのある1冊でした。お見事。


中学生で作家としてデビューしたけれど、出す小説がことごとく売れず、世間のニーズに合わせて作風を変えても売れず、ネットでは叩かれまくり、小説を嫌いになりかけてしまった現役高校生作家・千谷一也。
そんな彼のクラスに転校してきた美少女は、なんと同じく高校生作家でしかも売れっ子の小余綾詩凪。
売れ線のことばかりを考えて拝金主義的になってしまった千谷と、ひたすら小説に真摯に取り組もうとする小余綾では、当然意見はガッツリぶつかり合い……。
しかし担当編集者に呼びだされた千谷は、そんな小余綾との合作を書くことになってしまうのです。
いやはや、なんといっても目に付くのは、主人公・千谷の情けなさ。二言目には「無理だ」と言い出すし、小説を書こうとする後輩には「小説に力なんてない」とか言っちゃうし、売り上げ至上主義者だし、まったく憧れる要素がない、まさに彼が言うところの「売れ線じゃない」主人公像そのものです。
しかし彼だって、最初からそうだったわけではない。純粋に人に何かを伝えたいとか、小説が好きだとか、そういう気持ちでデビューしたはずなのです。それを奪ったのは、他ならぬ小説の売り上げと読者の声。
綺麗事だけじゃ、小説家を続けることはできない。そんなシビアな現実に晒され続けた思春期の少年がこんな風にねじ曲がってしまったとして、いったい誰が責められるでしょうか……。


一方の小余綾は、デビュー作からずっと売れ続けてきた人気作家であり、プロットを書かずに頭の中で物語を作り上げる天才作家であり、文武両道の上に見た目も完璧な美少女であるという、千谷曰く「人間が書けてなさすぎる」くらい非凡なヒロインです。
当然、小説に対するスタンスも千谷とは大きく違います。彼女は、書きたいものを書けばそれが売れる作家なのですから……。
執筆の中で、両者は何度も何度もぶつかります。どちらかが「やめる」と言いだしたことさえ一度ではありません。一緒に行動して、取材と称してバドミントンなどもやって、少しずつ千谷も小説を書く楽しさを思いだしてきて、さあここからだというところで、予期せぬショックが待っていたりする。
辛い。苦しい。惨めで泥臭くて情けない。こんな自分が、天才である彼女の物語を書いたりしてよいものなのか。自分は彼女のような「陽向」の人間ではないのだ……。
どこまでも沈んで、逃げて、閉じこもって。彼のことを待ってくれる人もいるのだけれど、そんな人のことは目に入らなくて。本当に重苦しい展開が続きますが、そんな暗闇の中で、悩んでいたのは彼女の方も変わりないのだと知る。
売れっ子には売れっ子としての苦しみがある。書き続けることは、簡単なことではないんだ……。では、こんなに苦しみながら、どうして小説家は小説を書くのだろう。
正解はたぶん、人それぞれで、他の誰にも分からないけれど。書くことでしか前に進めない人たちに、必死で追い求める光を、夢を、未来を、どうか掴みとってほしいと心から応援したくなる。同時に自分も何かやりたいと思わせてくれる、勇気の出る物語でした。素晴らしかったです。


成瀬さんの作品がめちゃくちゃ面白そうなんですけど!