まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

ブックマートの金狼

ストーリー
東京・新宿のど真ん中に位置する『くじら堂書店』店長を務める宮内直人。
彼はかつて伝説的チームを率い、裏社会にまで名を轟かせた元トラブルシューターだった。
引退して久しい宮内だったが、そんな彼の元に久しぶりのトラブルが舞い込んできて……。



書店員モノかと思ったらミステリー風味裏社会バイオレンスアクションだった、そんないつもの杉井作品。
いやしかし面白かったです。書店店長の主人公(三十路)がとにかくカッケーんですわ。
アイドルのストーカー事件から思わぬ方向に話が進んで、色んな人間を巻き込みながら結末へとなだれこむ。さすがの巧さでした。


新宿のとある書店で店長を務める宮内直人の下にいきなりやってきた現役アイドル・桃坂琴美と事務所の社長。
かつて「スカーズ」というチームを率いて裏社会からも一目置かれていた「ナオト」に、警察沙汰にしたくないストーカー事件を解決してくれと依頼しにきたのです。
すっかり健全な本屋の店長になっていた宮内は依頼を渋るのだけれど、そのストーカー事件に兄が関わっているのだという琴美の告白を聞き、重い腰を上げるのでした。
ガチのヤクザやスカーズの元メンバーなどろくでもない知り合いばかりではあるものの、都会に蠢く闇のことを調べるにはとにかく使える彼らの協力を得て調査を進める中で、次第にこれがただのストーカー事件ではないと明らかに。
琴美や彼女の母親が何を隠しているのか……その隙から垣間見える、金と暴力に満ちた裏社会の臭いに背すじが寒くなりつつも、気になる展開の連続に興奮が収まりませんでした。


書店店長としては、高校生バイトから舐められ、古株バイトの吉村さんからは毎日お小言を言われ、と冴えない社会人っぷりを見せる宮内ですが、いざ荒事となると様変わり。
逆に、これだけ喧嘩慣れしている人間がなんで本屋に……と不思議になってくるくらいなんですけど、店長としての情けない姿と修羅場における姿とのギャップがいいんですよ。
吉村さんはとても魅力的なヒロインで、危なっかしい調査の合間に出勤してきた宮内と気のおけないやりとりを交わしたり、宮内が油断して入院してしまったときは何も説明してくれない宮内に怒りながらも心から心配する様子を見せたりと、胸の温かくなる場面がいくつもありました。
裏社会に深く関わっていた「過去」と、本屋としての「今」。その「今」を体現している大切な人である彼女が、しかし自分のせいで闇に巻き込まれてしまったら……。
思いっきり胸くそ悪い野郎どもとの最後の戦い。守りたいものをひとりでは守りきれなかった情けない男と、そんな男にかつて背中を預けた不器用な男。ふたりの久しぶりの共闘が胸を熱くさせてくれました。
全て終わった後の吉村さんがまたえらく可愛くて参りました。宮内は別に鈍い奴ではないと思うんですけど、彼女の気持ちには気付いているのかな?
宮内がまた裏に首を突っ込んだら、きっと吉村さんはめちゃくちゃ怒るんでしょうが、何よりこのふたりの今後が見たくてしょうがないので、続編に期待しています!


表紙イラストのキャラクターはどちらも宮内?