まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

うーちゃんの小箱

ストーリー
「うーちゃんのほのぼの四コマ漫画」で新人賞を取った氷見伊助。
授賞式で、大賞作家の天奈優衣から親切に声をかけられるが、持ち前のひねくれ根性で喧嘩を売ってしまう。
ところがその事件をきっかけに、優衣と彼女の妹のマンションで一緒に暮らすことになって……。



第20回スニーカー大賞<優秀賞>受賞作品。
ほのぼの四コマ漫画家として新人賞を取った少年と、周りの少女たちが織り成す不器用な青春創作ストーリー。
不思議な読み応えのある作品でした。正直かなり読みにくい文章だったのですが、その中から、主人公やヒロインとその妹、そして部活仲間たちのもどかしい思いがぐぐっと伝わってきます。
悩み、すれ違い、互いを支えながら少しずつ前に進んでいく少年少女の青春を、応援したくなりますね。


特にオチもなく大きな笑いもないほのぼの系四コマ漫画「うーちゃん」で漫画の新人賞を受賞した主人公・伊助。
彼は、授賞式で「うーちゃんのファンです」と話しかけてきてくれた大賞作家の少女・優衣に対して、「俺はヴァリジーナ姫のファンじゃない」と返してしまう、ちょっと残念な根性の持ち主。
しかしある日、いきなり優衣の妹・深月に連れられて、姉妹がふたりきりで住むマンションへ。天才・優衣の刺激となり、ライバルとなるために、一緒に暮らして漫画を描くことになってしまうのでした……。
うーん。なかなかどうして、難しい主人公ですね。本文は伊助の一人称で進むんですが、彼が何を考えて漫画を描いているのか、結局のところ漫画が好きなのかそうでもないのか、よく分かりません。「うーちゃん」というキャラクターに関しては、どうやら大好きみたいですけど。
そもそも最初は高校の文芸部で、霧姫という少女と一緒に小説を書いていた伊助。でもなぜか、霧姫には何も言わずに漫画を描きはじめ、デビューしてしまった。
そのせいで霧姫とはぎくしゃくして、一方で優衣や深月と上手くいくわけでもなくて。感情も妙に揺れ動いて、なかなか本音を掴ませてくれませんでした。だから読みにくく感じたのかも……もっとも、思春期の少年とは、そういうものなのかもしれません。


結局のところ、悩むだけでは、物事は先へは進みません。人間関係も、漫画も、自分から動かなくては何も始まらない。
霧姫との関係も、「うーちゃん」の新作の執筆も、微妙な位置に棚上げしたままで、なんとなく過ごしていたけれど……。
直接的に何がきっかけだったのかも、ちゃんとは分かりません。それでも伊助はまた描きはじめることを決めました。
一方で、優衣と深月の、ちょっといびつな姉妹関係もね。お互いがお互いを思ってのことだったとはいえ、やっぱり自然な状態とは言えませんでしたから、こうやってきちんと向きあうことができてほっとしました。
いやあ、読み終えても、どこが良かったのかと聞かれると言葉に詰まるんですが……。色々とモヤモヤさせられつつも、不思議な満足感のある作品でした。ぜひ続いてほしいですね。


イラストはアルデヒドさん。うーちゃんのデザインが可愛くて、読みたくなってきますね。
変なスイッチが入った優衣さんがお気に入りです。


ヒロインとしては断然深月が好き。お兄ちゃんと呼んで。