まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

MONUMENT あるいは自分自身の怪物

ストーリー
旧ソ連出身の孤独な少年工作員ボリス・カルノフは、『賢者』の魔力資質を持つという少女、千種トウコの護衛依頼を受ける。
ボリスの任務は彼女が『ピラミス魔法学院』を卒業するまで、あらゆる危険から護り抜く事だという。
どうにも不透明な依頼を怪しみながらも、トウコの妹・ナナコに偶然を装って近づくことに成功するボリスだったが……。



魔術が当たり前に存在する世界で、少年工作員の主人公が魔法学院に潜入して不可解な護衛任務に就く、ミステリーバトルアクション。
とにかく情報量が凄い。旧ソ連出身という主人公を形作る設定の数々や、いくつも飛び出す哲学や心理学の用語、古典小説や映画からの引用など、細かい情報を入れつつも全く飽きさせない描写に、いちいちセンスを感じますね。
純粋なバトルものとしても十分楽しいのですが、なんといっても、謎を溜めるに溜めて最後の数十ページで一気に明かしていく構成が見事でした。


主人公は旧ソ連出身の工作員・ボリス。莫大な報酬に釣られて、世界最高のピラミス魔法学院に所属する少女の護衛任務を受けることに。
目的のためなら手段を選ばないを地で行く彼は、いつも冷静かつ冷徹。目標のトウコに自然に近づくため、初めは彼女の妹・ナナコと仲良くなろうとするわけですが、優しく気のいい青年の仮面を被った彼の見事な籠絡っぷりときたら!
純粋無垢なナナコがコロリと騙されて、あっけなく恋に落ちてしまうのも、仕方ないかなといったところです。まあそれにしたって、ナナコはちょっと無防備すぎると思いますけどね……。ナナコさんチョロ可愛い!
一方のトウコは妹と違って、注意深く知的な美少女です。妹を誑かす怪しすぎる男・ボリスとの腹の探り合いは、ピリピリしていて緊張感たっぷりでした。
他にも、トウコの友人・ルネや、預言者・セレーネなど、一癖も二癖もあるキャラクター陣が物語を彩ってくれています。


ピラミス島にやってきていきなりバイオレンスな目に遭ってしまうボリス。そんな彼の前にちょこちょこ姿を表す、学院の理事長代理・ヴィオレッタ。
どうやら彼女が任務のキーを握っているらしい……ということは分かるのですが、それ以外に明かされるのは散発的なヒントのみ。
謎が謎を呼ぶ中、敵側の誘いに乗って、ピラミス島の地下に眠る超古代魔法文明の遺跡へと赴いた一同は、その中で全ての真実を知ることになるのです……。
400ページ弱ある中で、それが明かされるのは本当に最後の30ページ。ここでひと息に、今までの何もかもを繋げてしまう展開の妙たるや。
謎が解けても、結局解決はできていないわけですけれども、これからボリスがもたらす未来に、少しは期待をしてもいいのでしょうか。
世界の先行きは、あのセレーネでさえ見通しきることができませんが……まったく、最後の最後までニクい演出をしてくれるものですよ……ひと筋の光があることを願いつつ、ページを閉じることにいたしましょう。


イラストは鍋島テツヒロさん。表紙のヴィオレッタさんがオーラ抜群!
口元までもユルユルなナナコはほんと可愛いなあ。


ロシア語での難聴主人公……流行る!(流行らない)