まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

愚者のジャンクション -side evil-

ストーリー
夏休み明けの復讐声明から始まった“エーミール事件”は一人の少年の逮捕により終結した。
しかし彼は復讐者ではあったが、エーミールにはなれなかった。
事件は誰が企み、誰の手で実行されたのか……。



エーミール事件を「名探偵」十文字の視点で描いた前回と対をなす、「最速」灰賀編。まさか君が視点主になるとはね。
表紙の通り特進科の動きをメインに、謎だらけだった事件の裏側を描いてくれました。
復讐に囚われた少年少女たちの誰ひとりとして好きになれなくて、全く救いのないお話でしたが……。読み応えのある上下巻でしたね。お見事。


エーミールに翻弄されたまま、事件の真相を解くでもなく、復讐に目覚めたあげくにあのような結末を迎えた十文字。
なぜ最後に、あの9月28日が訪れてしまったのか。十文字からは決して見えなかった事実の数々を、まさかの灰賀視点で描き出します。てっきり夜月が主人公だとばかり思っていたので、驚きました。ほら、灰賀って主人公にしては、だいぶ地味なキャラクターですし……。
「飼育部」が主にフィーチャーされた前回とは異なり、今回躍動していたのは「特進科」の面々。
灰賀本人はもとより、赤坂や青山など、前回もそれなりに活動は散見されましたが、青山や黒田、そして夜月が実際にどのようなことを行っていたのかは分かりませんでしたからね。やっぱりこの、「悪党」3人組がキレッキレで、独自の信念に基づいて生きる悪という感じで、悔しいけれど格好良かったです。決して好きにはなれませんが。


そしてもう1人、ある意味で誰よりも謎に包まれた存在の、飼育部部長・翡翠。彼女が飼育部で何をやっていたのかということも、今回で明らかになりました。
特進科と負けず劣らずの闇を抱えた彼女ですが、「なぜ」飼育部を続けていたのかという理由だけは、びっくりするほど意外でしたね。不意にこういう、ドキッとするような事実を入れてくるから、油断ならないんだ!
こうして、声明を書いたエーミールの正体も、殺人者も、そもそもの首謀者も、ついでにてるてる坊主の中身も、みんな明らかになりました。
その全員に、彼らをそうさせた「なぜ」があって、もちろん説明はされているわけですが、やっぱりそれは理解しがたいものばかり。
まあ、そんな簡単に分かりあえてしまったら、こんな事件は起こっていないでしょうし、この「分かりあえなさ」をもどかしく思いつつも楽しむのが、わりといい読み方じゃないかなと思います。個人的にはね。
両サイドの物語が揃った今、日付に合わせた同時進行という贅沢な読み方もできるので、いつか是非やってみたいです!


出番はほとんどないけど表紙の黄紗良が可愛い。