まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

明日、今日の君に逢えなくても

ストーリー
ひとつの体に複数の人格が宿る一過性の病気<シノニム>を患った「妹たち」。
彼女たちの中で誰が本当の人格なのかは誰にも分からず、普通の女の子に戻る方法は別人格が夢を叶えてこの世界から消えることだけだという。
そんな妹たちと六年もの間過ごしてきた兄・統哉は、夏休みの夜、彼女に宿った三人のうちの誰かから告白され、ファーストキスを奪われてしまい……。



ひとつの体に複数の人格が宿る不思議な病気<シノニム>に罹った「女の子たち」の、それぞれの青春と夢を描いたミステリアス学園ストーリー。
うーん、切なさ満開。誰が本物の人格か分からない中で、自分が消えてしまうかもしれなくても、強い思いを叶えるために精一杯生きるそれぞれの少女の姿が儚くも晴れやかで眩しい。
淋しいけれど読み終わってほっとため息をつきたくなる、そんな素敵なお話でした。


心優しくいつもにこやかな少女・藍里。陸上が得意な元気いっぱいの少女・茜、ロックをこよなく愛するクールな少女・蘭香。<シノニム>を患ったことで生まれた、妹の中に存在する3つの人格。
普通なら1ヶ月くらいで自然に治るところを、彼女たちは6年間もこの状態のままだったから、彼女たち自身も、兄の統哉も、周囲の人々も、彼女の中に3人いるということがすっかり当たり前になっています。お互いに日記を書いて表に出るシフト(?)を調整したり、ルールを取り決めていたり、ちょっと楽しそうなくらい。
でも、彼女たちの存在はとても不安定なもの。誰が元の人格かも覚えていないから、もし自分が別人格の方だったならば、いつ消えてしまうかも分からない。そして別人格は、夢を叶えると消えてしまう……。
しかしそんな状況だからこそ、彼女たちは精一杯に今を生きて、それぞれの夢を叶えるために頑張るのでした。


各章ごとに、藍里、茜、蘭香それぞれの青春が描かれました。
見た目は同じでも別の人格だから、もちろん3人それぞれの思いがあって、3人それぞれの願いがあって、そして3人それぞれに大切な人がいます。
もちろん消えたくはない。でも、いつ消えてしまうか分からないからこそ、やれることをやれるだけ、自分らしくやりたい。
夢を叶えて消えていく彼女たちの姿を見るのは悲しいけれど、でも彼女たちは最高に幸せそうで、これでよかったんだな、とも思えてくるのでした。
統哉の思いはさらに複雑ですね。3人の大切な妹を持って、それぞれの夢を応援して、別れに立ち会って……。その上、彼女たちの誰かから告白をされているのですから!
真相は第四章で明かされるわけですが……各々の大切な人に別れを告げて去っていった女の子たちの、それぞれの思いを受け継いで生きていく彼女に、幸あれと願わずにはいられません。
切ないけれど、読んだ後妙にすっきりとした気持ちになりました。読んで良かったです。


イラストは高野音彦さん。淡いタッチが作品とマッチしていていいですね。
エピローグの扉絵が印象的でした。


ベッドの下はいいよね。