まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

二度めの夏、二度と会えない君

ストーリー
転校生・森山燐に振り回され、バンドを結成してライブを成功させ、最高の夏を過ごした篠原智。
しかし不治の病に侵されていた燐は、智の告白に対して拒絶の言葉を遺し、命を落とす。
燐と出会った夏にタイムリープした智は、彼女を最後まで笑顔で逝かせるため、自分の気持ちを隠し通すことを誓うが……。



死にゆく女の子に想いを告げてしまったがゆえに悲しい別れ方をすることになった主人公が、タイムリープした二度目の世界で、その女の子の笑顔を守り抜くために気持ちを隠しつつ、もう一度青春を過ごす切なくてほろ苦いサマーストーリー。
好きだと伝えてはいけない主人公の苦悩や、女の子の病状を知りつつも知らぬふりを突き通さなければならない辛さ。そしてなにより、最後に彼女は間違いなく命を落とすということ……ああ……。
あまりに重い。重いのですが、そんな題材を扱いつつも全体的にかなりサッパリとした描写を通しており、あまり後に引かせることなく、儚いひと夏の青春を描いてくれていたと思います。


何をするにも行動力に溢れていて、周りの皆を巻き込んで大きなことをやり遂げてしまうエネルギーの持ち主・燐。
そんな彼女に引っ張られつつ、あの楽しかった夏をもう一度やり直すことになる主人公・智。
燐に告白した結果、彼女に辛い思いをさせてしまった過去があるから、燐とは必要以上に近寄らないようにしたい。
でも燐はしぶとくまとわりついてくるし、結局好きだから拒めないし、何より燐に笑顔になってもらうには前回の夏と同じことをすることが一番だから、自分だけ我慢してまた同じ夏を繰り返す。
智の悲壮な決意が切なくて、ちょっと燐との距離が縮まりそうになったら怖がって離れようとする姿が痛々しくて、胸がきゅっとしてしまいました。


同じように過ごしたはずなのに、少しずつ増えていく一度目との差異。
バンドメンバーや会長は前回と同じだけれど、どうしても智と燐の気持ちは離れてしまって、このまま進んでライブは成功できるのかと、不穏なものを感じさせました。
離れてぶつかってまた一緒になって。壁を乗り越えて彼らが見た景色は……。
伝えられなくても、伝わるものもある。きっと、そういうことなのですね。いいお話でした。


イラストはぶーたさん。夏の風にふっと溶け出しそうなこの表紙、実に素敵。
モノクロイラストもキャラクターの表情が豊かでよかったです。


一番おいしいキャラは会長。