まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

黒鋼の魔紋修復士8

ストーリー
ロマリックから戻って以来、妙に冷たいディーの態度に、もやもやした思いを募らせるヴァレリア。
そんな折、ビトーの神巫ソルグンナが亡命を望みアーマッドに逃げ込んでくる。
国家間の信頼維持のためソルグンナを返還したい首脳陣の意向に反し、彼女を助けたいと考えるヴァレリアだが……。



久しぶりに胸のすくようなお話でした。このシリーズは事件が解決してもどこかモヤモヤが残るような展開が多いのですが、今回は気持ちよく読み終えることができましたね。
途中、ヴァレリアの甘さが問題を引き起こしてしまいますが、個人的にはこれでさらに彼女のことが好きになりました。
ヒーローというものは、考えなしで無茶をするくらいがちょうどよいと思います。無難で理性の固まりみたいな主人公なんてつまらないでしょう。


多忙極まるヴァレリア様、次の出張先はアーマッドの東、ビトー。これで東西南北を制覇しました。文字通り国中を駆け回ってます。
それだけたくさんの事件をディーと共に解決してきたということで、ヴァレリアの方はディーに対して、明らかに惹かれ始めているようです。正直、男の趣味はあまりよくないなと思いますが……。
一方、それを察したディーは、今まで以上に冷たい態度を取るように。神巫と恋愛をするわけにはいかないので分からなくはないんですが、それにしてもねえ。わけも分からず距離を取られて困惑するヴァレリアの姿に、胸が痛みます。ベッチーナの指摘は的確でした。
ふたりの仲が戻らないまま、やってきた難題。ヴァレリアがあんな強攻策に打って出てしまったのには、ディーへの反発も少なからず影響していたのではないでしょうか。
まあ、確かに大失敗でした。あれで全てが終わってしまってもおかしくありませんでした。
でも、ソルグンナの境遇を知り友人になっておきながら、その彼女を見捨てるような決断は、ヴァレリアには絶対に似合いません。大を取って小を切るとか、国家のために割り切るとか、そんな“賢さ”は逆に、彼女の良さを消してしまうと思います。
ヴァレリア自身は、ディーほど戦いが上手いわけでもないし、思慮が深いわけでもないのだけれど、ディーよりもヴァレリアの方が主人公らしく見えるのは、やっぱりこういうところがあるからなんでしょうね。


この追い詰められた状況を引っくり返すだけの腹黒い陰謀を思いつき、実行するあたりはさすがイサーク殿下。
ヴァレリアとイングヴェルドの対峙はよかったですね。ヴァレリアがヴァレリアらしさをはっきりと示せていたと思います。
珍しく、大きな禍根も残さない綺麗な解決劇となりました。次は短編集ということで、明るくて楽しいお話が読みたいですね。


ベッチーナ分少なめで寂しい。