まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

パナティーア異譚1 英雄のパンドラ

ストーリー
小学五年の夏休み、異世界に召喚されて世界を救った相川理人。
英雄となった日から六年、元の世界で平穏な高校生活を送っていた理人は、再び彼の地に強制召喚されてしまう。
魔神の再臨を防ぐため、最強の防具と力を持ったまま二周目の冒険に旅立つ理人だったが……。



竹岡先生の作品を一度読んでみたかったのと、屡那さんのイラストに心惹かれたのとで手に取りました。
とても面白かったです! 一度世界を救った元勇者の少年が再び世界を救う旅に出る異世界召喚ファンタジーなのですが、6年前の理人はなんと小学5年生。文字通り「少年」だった頃とは心も体も違うし、共に世界を救ったパーティーのメンバーもそれぞれの道を歩んでいて、当時とは何もかもが違う状況。
そんな中、再びついてきてくれたかつての相棒・イシュアンと共に、元の仲間を訪ねたり昔を思い出したりしつつ魔神との戦いへと挑んでゆく、時間を超えた冒険ファンタジーです。
謎や伏線の散りばめ方・回収の仕方も見事で、冒険のワクワク感だけでなく、最後にはちょっと切なさも残る、読み応えのあるお話でした。


この物語の大きなキーワードが「6年」。
子ども時代の6年は長い。なんてったって小学生が高校生になってしまう時間ですから、大げさに言えば、子どもが大人になる時間というところです。
小学5年生で世界を救った理人ですが、元の世界に戻ってからの彼の生活は学校で目立たぬように過ごす平凡なものでした。
異世界で手にした圧倒的な力も失い、世界を救ったという名声もなくして。異世界に行っていたのが3ヵ月とはいえ、戻ってしばらくは相当苦しんだだろうと思います。RPGをやらなくなったというのは妙にリアルでおかしいですね。
一方、異世界の方でも同じだけ時は過ぎていて、一介の魔術師だった仲間が出世の末がんじがらめになっていたり、パーティーの中でも一番戦闘能力の高かった女剣士がとある理由から前線を退いていたり。
かつての英雄たちもずっと同じ姿でいることはできなくて、どうしても何かが変わってしまう。それは決して悪いことだけではないけれども、少々の寂しさを感じずにはいられません。あの英雄たちはもはやいないのだと。


仲間たちの中で唯一、理人と一緒にまた冒険することになったヒロイン・イシュアン。
女の子の6年はたぶん、男の子のそれよりも大きくて、男か女か分からなかった6年前とは異なり、はっきりした美少女になりました。まあそれにしたって、こんなことになるまで男だと思っていたというのはさすがにちょっと、理人さん……という感じですが。
ただ戦う仲間だったあの頃。でも今は思春期を迎えた男女で、6年経った今になって初めて、お互いへの気持ちに気付いていくふたりにニヤニヤさせられました。
だからこそ、最後の展開はなかなかに衝撃的でしたが……。いやはや、やられたなあ。紛うことなきハッピーエンドなのだけれど、やっぱり少し切ないですね。不思議なものです。
1巻完結かってくらい綺麗に終わりましたけど、理人たちの今後も気になるので、続いてくれるのはとても嬉しい。次巻が待ち遠しいですね!


イラストは屡那さん。素晴らしいのひと言。キャラに眼力があるのがいいんですよね。
もうちょっと俯瞰気味のバトルシーンイラストも見てみたいなと思います。


出木杉くんの漢字変換は大抵の人が間違えますよね。