まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

魔王殺しと偽りの勇者1

ストーリー
十日前、百年に一度復活すると云われた大魔王が斃された。
だがそこで、四名の人物が「自分こそが大魔王を倒した勇者だ」と主張。
本当に大魔王を打倒した勇者を見つけるため、王宮戦士のエレインは調査を始めるのだが……。



証言を聞いて嘘を暴き、本当の勇者を見つけ出すファンタジーミステリー。
面白かったです。いくつもの情報の中からちょっとした矛盾点を発見しては嘘を指摘していく流れが実に気持ちいいですね。
あとがきによれば前後編の前編ということなので、伏線など忘れないうちに早く続きが読みたいところ。


主人公は王宮戦士・エレイン。探偵助手にふさわしく、考えなしで直情径行、どんな嘘にも見事に引っかかりそうな女の子です。
そして探偵役は王家の一員でありながら魔族に寝返り、幽閉されていた青年ユーサー。冷静沈着、慇懃無礼な皮肉屋で、いやみっぽい言い回しが特徴的。
このふたりで勇者探しをしていくわけですが、まあはっきり言ってベストコンビではありません。ユーサーはともかく、エレインがあまりに役立たずです。世間の評判には流されるし、疑うということを知らないし、すぐにカッとなるし。
ただエレインのいいところは、自分の過ちに気付いたらきちんとそれを認めることができる正直さにあります。まともな騎士だったらとてもユーサーとは一緒にやっていけないでしょうが、彼女が曲がりなりにも助手を務められているのは、きっとそのあたりが理由でしょう。
初めこそ最悪だったコンビネーションも次第にリズムが合ってきていて、終わり頃には悪くないチームになっていました。これ以上関係が発展するのかどうかは分かりませんが。


今回証言を聞き出すことになったのは騎士レデリックと聖女ジュセルのふたり。
それぞれ人当たりもよく、いかにもまっすぐで信頼のできそうな人物でした。でも少なくとも片方は確実に嘘をついているわけでして、正直、これならエレインじゃなくても騙されてしまいそう。
ファンタジーではありますが、大魔王の死因は単純で「剣で一突き」。魔法や超能力といった神秘的な力は関係ありません(魔法は存在するみたいですけど)。分かりやすくていいですね。
こういったいくつかの前提情報と、証言内容のどこかに食い違いがあります。食い違いが見つかったらその人は嘘をついているということです。さあ、嘘はどこでしょう?
後出し情報や曖昧な言い方などは使っておらず、解答編の前までに明かされた情報で明快に答えが出ます。私はミステリーの謎を考えるのは苦手なもので、特に何も考えずに先を読んでしまいましたが、ページをめくる手を止めて嘘を探してみるのも一興かもしれません。
もやもやとわだかまっていた謎が一気に解ける快感はたまりません。うーん、すっきり。


次巻で解決ということは、残るふたりから証言を得て、勇者を見つけるところまでいくということですね。
もちろん誰が本当の勇者なのかも気になりますが、エレインとユーサーの関係の微妙な変化にも注目していきたいところ。
この旅が終わったとき、エレインはユーサーに何を思うのでしょうか。楽しみですね。


イラストはぎん太さん。派手ではないけれど透き通った印象のあるモノクロ絵が好きです。
聖剣レグリアを説明しているイラストがなんとなくお気に入り。


2巻といわずもっと続いてくれていいのに。