まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

know

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)

ストーリー
超情報化対策として、人造の脳葉<電子葉>の移植が義務化された2081年の日本・京都。
情報庁で働く官僚の御野・連レルは、日本でも数少ない《クラス5》の情報ランクの持ち主だった。
ある日御野は、恩師の研究者、道終・常イチが発明した情報素子のコードの中に、彼が残した暗号が隠れているのを発見して……。



SF。ううむ、この敷居の高いワード。そして敷居の高いあらすじ。しかし野崎まど先生が書くというのなら、読まないわけにはいきません。なんだこの使命感。
ということでいつもよりちょっと構えて読んでみたのですが、やっぱり野崎まどはどこに行っても野崎まどでした。ほっ。
慣れない単語も多いし、確かに最初のとっかかりには戸惑いましたが、やはり文章はとても読みやすいし、ストーリーにはぐいぐい引っ張っていく力があるしで、驚くほどさらっと読めてしまいました。


上に書いたあらすじだけでは何も説明できていない気がするので改めて書きますと、物語の舞台は世界中の物体に“情報材”が使われ、人の脳には情報ネットワークに常時アクセスする<電子葉>が埋め込まれ、いつでも全ての情報を手にすることができるようになった時代。
そしてそんな未来の世界にも厳然と存在する情報格差が、0から6まで格付けされた“情報格”制度。主人公の御野は、情報階級社会のトップクラスに位置する優秀な官僚です。
その優秀さと、天才科学者である恩師に対する情熱から、御野だけが気付くことができ、解くことのできた暗号。暗号の答えの先に待っていたのはひとりの少女でした。
なんといってもやはり、今作の何よりの魅力は、ミステリアスに過ぎるこの少女、道終・知ルでしょう。彼女が登場してくるまで、クラス5である御野の凄さがさんざん描かれてきていたのに、そんな彼の全てをあっさりと超えてしまう超越者ぶりがたまりません。
御野をはじめとした人間たちが決められたルールの中であくせくする一方で、世界でただひとり、そんなルールにとらわれていない、まさに次元の違うもの。ほんとうに、こういう圧倒的なキャラクターを生み出すのが上手いなあと思います。
寺や御所での知ルのパフォーマンスには胸が震えました。特に素月との対峙の場面などは、最高に小気味良かったですね。


知ルの言われるがままにふたりで過ごす謎の4日間。彼女の思惑も、彼女の親の思惑も分からぬまま、どんどん物語は進んでいきます。
そして訪れる最終章。謎と伏線が一気に収束する快感と、抑えきれない生理的な嫌悪感。このなんともいえない感覚にぞくぞくさせられるんですよね。
決して、理解しがたいことや不気味なことばかりに終始しないのがまたいいところ。ことばを選ばずに言うならば化け物のような存在である知ルと、あくまで一般人の御野の間の心の交流、愛の交流を見ていると、知ルもまたひとりの女の子なんだということに気付かされます。
全てを知っていても、まだ知らないことがあったんですね。こうやって書くとことば遊びみたいですけどね。
エピローグ、最後の1行に秘められた破壊力は、もはや貫禄です。参りました。ああ、面白かった。


メインのふたりを除けば大僧正が結構好きです。あと三縞ちゃんかわいい。