まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

カクリヨの短い歌

カクリヨの短い歌 (ガガガ文庫)

カクリヨの短い歌 (ガガガ文庫)

ストーリー
遠い遠い昔に生まれ、一度幽現界へと消え、そして僅かずつ還ってきた「歌」たち。
ある日、四万と一一四の歌を集めたといわれる祝園の屋敷に、ひとりの女が訪れる。
歌詠みだと名乗り歌を求める彼女に対し、祝園の当主は断りの言葉を告げるのだが……。



第7回小学館ライトノベル大賞<ガガガ大賞>受賞作品。
この世に異常をもたらす「歌」を巡って「歌詠み」たちが戦いを繰り広げていく物語です。
第一印象としては“お洒落”。古いお屋敷の縁側でまったりお茶でもすすりながら読みたい感じ。
テーマがテーマだけに一見とっつきにくそうですが、和歌に対して特に素養のない私でも楽しめましたし、普通にバトルものとしても面白く読めるんじゃないかと思います。


表の主人公・宗道と、裏の主人公・真晴が各章ごとに順繰りに登場し、最後にぶつかり合うという展開が熱いですね。
お互いにたいへんな力を持ったふたりですが、そこはライバルの常といいますか、性格や行動原理は対照的でした。
禍歌を嫌ってもの静かに歌を楽しもうとする、隠居した賢者じみた宗道。
自分の目的のために手段は選ばず、無邪気かつ乱暴に歌を集めようとする真晴。
まさに表裏、あるいはその立場から、あるいはその力量から、あるいはその望みから、周囲の人々とは一歩ずれた両者のそれぞれの生き様に魅了されます。
個人的には真晴の方が分かりやすくて好きですね。なんといっても派手ですしね。やり方には問題ありですけれども。
宗道は達観しすぎててよく分かりません。作中でいちばん謎めいた人物ではないでしょうか。


宗道も真晴もいいけれど、しかしなんといっても最高のキャラクターは藍佳でしょう!
癒し。そのひと言に尽きる。撫でまわしたい。一緒に寝っ転がりたい。
まあどう考えてもヒロインには成り得ないと思いますが(それはむしろ真晴の役割のはず)、ただただ愛でる対象としては素晴らしいマスコットキャラだと思います。
人か狐か狸かなんて些細な違いに過ぎないですよ。ええまったく。


それなりに綺麗に終わったような、一方で何ひとつ初めから変わった部分のないような、そんな締め方でした。
続編はあるのかないのか、まだ分かりませんが、もし次があるのならぜひ宗道の話を掘り下げてもらいたいですね。
でもそれだけだと地味なだけのお話になりそうですから、やっぱり真晴にもしっかり活躍していただきたいところ。当然ながら藍佳にも期待しております。


イラストはpomodorosaさん。イラストが入るのは各章の扉のみでしたが、読み終わってから1枚1枚眺めてみるとなかなかに趣深い。
光と影を演出した表紙も改めて見ると素晴らしいですね。


新栄島にはモデルはないのだろうか。