まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

“空蟬” ヒカルが地球にいたころ……(7)

ストーリー
ヒカルの“最愛”の人の想いを尋ねようと訪れた教会で、是光とヒカルは清楚な女性に出会う。
空という名の彼女は、“天使の子”を身ごもっているのだと是光に話す。
自分との間の子かもしれないと騒ぐヒカルのため、空と子供を守ろうと奔走する是光だったが……。



手当たり次第に女の子とつきあっていたヒカルのことだから、いつかこういうことが起こるのだろうなとは思っていましたが、やっぱり彼、やらかしてました。
高校生が女性をはらませた! なんていうとひどく嫌なものに感じられて仕方ないのですが、それがヒカルとなると途端に綺麗な行為のように思えてくるからずるい。天使はずるい。
空は、今までになかったタイプのヒロインでした。お腹の中に赤ん坊がいるんだから是光に惚れたりなどしないのは当然として、年上ということもあり、是光にはお母さんのように接してくれる女性でしたね。
「子供」や「家族」をめぐるストーリーの中で、母親への気持ちにけじめをつけていく是光の姿にはじんわりとくるものがありました。


デレた朝ちゃんの可愛さが留まるところを知らなくて困ります。
表面的には刺々しいけれど表情やことばの裏に是光への優しい気持ちが分かりやすく見られて、きゅんきゅんさせられっぱなしでした。
是光との間に子供ができたという噂が流れてしまって怒りながらも照れてしまう朝ちゃんとか、アパート乱入直後の朝ちゃんとか、もうたまりません。純然たる破壊力でいえばもはや最強のヒロインかも。
恋愛方面だけでなく、是光の協力者という面でも朝ちゃんはたいへんに心強い。これまで絶対的な敵対者だっただけに、彼女が仲間にいるというだけで漂うこの安心感は、他のキャラからは得られないものでしょう。朝ちゃん……これほどまでに魅力溢れるキャラクターだったとは。


是光の周りでは、「是光に子供が!」という噂なども手伝っていよいよ恋愛のあれこれが激化してきたように思います。
まずは帆夏。勘違いしながらも是光のために世話を焼こうとする彼女はどれだけ健気でいれば気が済むのでしょうか。
自分もずっと悩んでるのに是光のことばかり想ってて、クッキーを落とされても自分が悪者として振る舞うことで是光を守って、もう呆れてしまうくらいにいい子。
是光の方も帆夏には特別な思いがあるようですし、そろそろ大きな動きがあってもよさそうなものですが、さて。
一方の葵は、今回特に不憫さが目立ちました。ヒカルにさんざん浮気をされて、それでも最後には自分を選んでくれたんだとようやく信じることができたのに、今さらヒカルが子供を作ってたなんて言われたら気持ちの置き場がなくなってしまうのも無理はありません。
それでも月夜子先輩や帆夏の態度を見て、自分でできることをしようと思える強さがある。本当、ヒカルにはもったいない素敵な子だと思います。
ここにきて是光に葵のことを気にする様子が見られたのは、彼女を応援する私にとっても喜ばしいことです。帆夏と葵、どちらが是光のヒロインになってゆくのか、いよいよ目が離せなくなってきましたね。


笑えない是光と、泣けないヒカルの特訓。そしてその成果に、胸がきゅっとさせられるほろ苦くて温かなお話でした。
ヒカルの“最愛”に関しては結局進みませんでしたが、あとがきによればシリーズもそろそろ終盤が近い(淋しいことに)ことですし、次あたりでまた明かされることがあるかもしれません。
そんな次巻は“花散里”とのこと。いよいよみちるが本気を出す番ですか。「どんどん修羅場って」ゆくらしい恋愛方面にも大いに期待しつつ、首を長くして待ちたいと思います。


帆夏とあの子が比べられていることは、野村先生もやっぱりご存知だったのですね……。