まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

秋期限定栗きんとん事件

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

ストーリー
クラスメートの女の子、仲村さんから呼び出され、告白されてつきあうことになった小鳩君。
そして小佐内さんは、新聞部一年の瓜野くんから告白されてつきあうことに。
ふたりが新しいパートナーと学校生活を送る中、校外では小規模な放火事件が頻発しており……。



上下巻別々に感想を書くつもりだったのですが、つい我慢できずに下巻まで一気に読んでしまいました。仕方ないよね。
あらすじ読んで、「ついに小鳩くんと小佐内さんがくっつくのか!」と勘違い。
なんとそれぞれ別のキャラとつきあい始めやがりました! なんだこれ!
まあ前回のラストからして、ここでいきなりつきあい出すわけがないとは思いましたけれども……。


仲丸さんは結構可愛らしいひとだし、瓜野くんもだいぶ暑苦しいけれど基本的にはいいひとだと思います。ただ、ふたりとも凡人でした。
小鳩くんと仲丸さんのやりとりなんかを見ていると特にその差が顕著でしたね。
バスの中での推理や、仲丸さんの兄の話の推理など、読者である私はとてもわくわくさせられたけれど、仲丸さんは小鳩くんの凄さに気付いてすらいないというこの寂しさ。
小鳩くんはこんなに格好良いのに、どうしてそこに気付いてあげられないんだ! とやきもきしてしまいます。もちろん、これはまったくもって小市民的発想ではありませんけれど。
でもね、やっぱり謎を解いているときの小鳩くんが一番輝いているんですよね。仲丸さんとのデートもそれなりに楽しそうではあるんですが、どうも上っ面だけのようにしか見えなくてね。気のせいではないと思うんですけどね。
一方の瓜野くんも、小佐内さんの真意にはまったく気付かぬまま、ひとりで放火事件を追いかけるのに必死になっていました。空回りもいいところです。もっとも、小佐内さんの真意なんていうものは他の誰にも気付けそうにないけれど……。
正直に言いますと、こんな瓜野くんが小佐内さんの彼氏を気取っているのにはたいへんイラッとさせられました!
もういいから、早く小鳩くんと小佐内さんのやりとりを持ってきてくれとずっと願ってページをめくっていくのに、なんと上巻ではひと言も会話を交わしてくれない(!)のだから、焦らし上手というかなんというか。


放火事件の犯人は、結局最後までどちらか分かりませんでした。どちらかというのはもちろん、上巻の最後で疑われていたあのひとなのか、そうでないかということです。
そうでないと思いたいけれど、だってあのひとだからね。やりかねないよね。
さんざん待たされて疑って、思う存分高まった気持ちは、解決篇にてすべて果たされることになります。
いやあ、爽快でしたね。だいぶ黒い方向での爽快さでしたけれど。我慢してきたものが一気に快感へと変わるこの感じ。そうか、これが復讐の味か……(恍惚)。
解決篇たる第五章で一度すっきりさせてから、エピローグたる第六章でさらに追い打ちをかけてくるこの構成、大好きです。
最後の一行の破壊力たるや! 小佐内さんは、これだからやめられない。


小鳩くんと小佐内さんはもちろん、新聞部部長としての健吾の魅力まできっちり描かれており、とてもおいしい上下巻でした。
冬期限定のスイーツはまだ登場していないようですが、ここまで来て冬期がないということも考えにくいので、きっと続きも出てくれるものと思います。
もし出るなら最終巻になるのでしょうか? 小鳩くんと小佐内さんが小市民の星に……なるのはどうにも厳しそうですが、ふたりがどんな方向へ歩み出していくのか、楽しみにしつつ待ちたいと思います。


にこやかに笑う小佐内さんの口から発せられる毒舌は蜜の味。