まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

夏期限定トロピカルパフェ事件

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

ストーリー
高校二年生の夏、小鳩君は小佐内さんから<小佐内スイーツセレクション・夏>なる一覧表を渡される。
スイーツコンプリート計画に自分が駆り出されることを疑問に思いながらも、一緒にお店に行く約束をする小鳩君。
ところが当日になって、小佐内さんから家を離れられなくなったという連絡が入り……。



うおおおおお面白かった! まさかこんな展開が待っているとは、予想外でした。
途中までは、前巻からだいぶ距離が近づいたような小鳩くんと小佐内さんの距離感にニヤニヤしていたはずなのに、気付くとニヤニヤがゾクゾクに変わってました。どうしてこうなった。
どうやら私は、小佐内さんというキャラクターを少々侮りすぎていたようです。あの小動物的な愛らしさの裏に隠れたものが、これほどだったとはね。暗い笑みを浮かべた小佐内さんの指先でタップダンス踊らされたい。


短編集としての色合いもあった前巻と比べると長編の趣が強かった今回ですが、第一章「シャルロットだけはぼくのもの」は、単体の短編としてもたいへん面白いお話でした。
小鳩くんと小佐内さんの知恵比べなどというものを見てハートが奮い立たずにいられましょうか。
珍しく甘いものに興奮した小鳩くんが、ケーキをひとつ多く食べるために工夫を凝らすわけですが、相手はあの小佐内さん。
パッと見は完璧だけれど、どこかに穴がないかと熟考する小鳩くんに思わず気持ちを重ね、小佐内さんにバレてしまうのではないかと手に汗握りました。いや楽しかった。


ちょっとした暗号解読の短編の第二章を挟み、いよいよ「事件」のパート。
もうすっかり日常の謎どころの話ではなくなってしまいましたね。てっきり、もっと穏やかな謎ばかり描かれていくものとばかり。おみそれしました。
警察沙汰の大事件に知り合いが巻き込まれているのにわくわくしてしまい自己嫌悪に陥る小鳩くん。これは確かに業が深い。しかし読者である私も似たようなものです。あの電話がかかって来たときには、「遂に来たか!」と思ってしまいましたものね。
もっとも事件自体は大事が起こる前に収まって、ある意味では少しだけ拍子抜けだったのですが……。ああなんということか、この事件は解決してからが本当の本番でした。
ミステリに関して特級の鈍さを誇る私でも、さすがにいくつか気になるところがあったのですよね。タイミングの良さや都合の良さなど、小さく首をかしげることがあって、でもミステリだし、トリックを成立させるためにそういうこともあるかと思って納得していたんですけれども。甘く見てました。トロピカルパフェのように甘かった。申し訳ありません。
事件中どころか第一章や第二章の短編中にさえさりげなく混ぜ込まれていた伏線が、一気にほどけてゆく心地よさたるや! そして空恐ろしさたるや!


後味はコーヒーよりもビターでしたが、幸い物語はまだ続きます。
このふたりの関係が今度どう動いていくのか、さっぱり見当もつきません。もちろん、期待しているものは前回とさほど変わりませんけれど、はてさて。
次は上下巻に分かれているようですが、急がず、丁寧に読みたいと思います。


シャルロットと同じくらいにタンメンが気になる。