まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

えびてん 綺譚奇譚

ストーリー
海老栖川高校天文部に今日も舞い込んできた、怪事件解決の依頼。
誰もいない空き教室の黒板に毎日、奇妙な棒人間の落書きが描かれ続けているという。
部長・伊勢田結花と副部長・大場蓮實は、謎を解くために調査を始めるが……。



同名の漫画及びアニメのノベライズです。
漫画を読んでいるわけでもないし、アニメも1-2話しか見てないのですが、知り合いから「予想以上に日常ミステリーやってるよ」との情報を頂いたので物は試しと手に取ってみました。その通りでした。何これ、面白いんですけど。
学校内で巻き起こる、ちょっとゾクッとくるような奇妙な事件。軽妙な会話を交えつつ、その真相を明かしていく、探偵役とツッコミ役。
ミステリーだったり、ギャグだったり、少女同士の友情だったり、もうちょっと突っ込んでほのかに百合っぽかったりと、色んな楽しさがぎゅっと詰まった1冊でした。
いかんせんキャラクターの把握もできていないまま読んだのですが、本筋に関わるのはほとんど結花と蓮實のふたりだけですから、原作を知らなくても十二分に楽しめますね。


「踊る人形」「憂鬱な猫」「タツノオトシゴはおもいだせない」の3編を収録。
作中でも説明されているように、踊る人形といえばかのシャーロック・ホームズにも登場するネタですね。
ホームズの中でもかなり不気味な短編だったような記憶があります。棒人間が踊っているだけなのに、どことなく怖さがあるのが不思議なんですよね。
「人形」だけでなく、「猫」や「タツノオトシゴ」も、ホラーとまではいかないまでも、全体的にそこはかとない不気味さが漂う謎でした。
別に殺人事件が起こらなくてもドキッとさせることはできるのです。これこそミステリーの醍醐味ではありませんか。
そんな謎を解いていく蓮實の思考は、打って変わってやたら科学的なものでした。探偵役なのだから当たり前ですか。
特に、そのオカルトチックな現象を説明するために心理学の用語を持ちだしていたのが印象深かったですね。別にその用語がなくても説明はつくのだけれど、それがあることでより納得させられた気がするんですよね。


第3話の「タツノオトシゴ」は、結花と蓮實の関係に大きく踏み込むお話でした。
それまでの凸凹コンビっぷりだけでもなかなかに素敵でしたが、このお話があることで、ふたりの間にある絆とか、固い友情とか、そういったものにより重みが出たと思います。
1・2話では謎を解こうとして空回りする役目だった結花も、3話では立派に探偵役を務めていました。
これも、蓮實のことを想って頑張ったからこそなのかな、なんて考えると、胸がほっこりと温まってきますね。


思わず原作を読みたくなってしまう程の面白さでしたが、あとがきによれば、漫画の方ではこのふたりは脇役のようで、読むや読まざるやと悩み中です。どうやら、漫画やアニメの1年前の話が、このノベライズの内容になっているということらしいですね。
アニメでは結花が天文部を辞めていたので、この後のふたりに何があったのか大いに気になるところですが、なんとも残念なことにノベライズの続刊予定はないとのこと。
このままシリーズ化してくれたら飛び上がって喜ぶんですけどね! もったいない!


イラストは狗神煌さん。原作漫画でも作画を担当されています。
今回はカラーを除けば各章の扉絵イラストのみでしたが、言わずもがなの凛とした絵柄が、ミステリーの雰囲気にもよく合っていたと思います。


OVAでもいいから、これをそのままアニメ化してくれないものか。