まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

僕の妹は漢字が読める5

僕の妹は漢字が読める5 (HJ文庫)

僕の妹は漢字が読める5 (HJ文庫)

ストーリー
『かんじよむ いもうと』の共同執筆を始めてからというもの、日に日にやきもちを強めていくクロハ。
ギンは、そんな妹への愛情を感じながらも、ユズへの思いも捨てきれず、流れに身を任せて日々を送っていた。
しかしある日、チョウマバヤシ博士からかかってきた電話の中で、クロハに関する不吉な話を聞かされて……。



なんと衝撃の最終巻。笑いも恋愛もシリアスも、高いレベルで安定していたラブコメディだっただけに、もう少し続くのかなと思ったのですけれど。
とはいえ、あとがきによれば、おおよそ予定していたストーリーの通りに書けたとのことで、確かに、ギンとクロハの物語を、過不足なくきっちりと、最後まで描いてくれていたと思います。
もしかしたら、他のキャラクターをもっと掘り下げることができたのかもしれませんが、これでいいのですよね。なんてったってこれは、あくまでも「僕」と「僕の妹」の物語なのですから。
肝心の内容ですが、もう、素晴らしかったです。そのひと言だけで十分な気もします。
いったいなんなんですか、この感動恋愛巨編は。ちょっと、素で震え上がってしまいました。
初めてオオダイラ文体を見たときには、いったいどんな一発ネタ作品なんだろうと思ったものです。まさかこの作品に、これほどまでに胸を打たれることになるなんて、欠片ほども予想していませんでしたよ!


クロハとユズさんと、ふたりの少女の間で揺れ動くギン。ようやくクロハの気持ちに気づいてきたけれど、血が繋がっていないとはいえ、クロハはギンの妹で、どう考えても普通に結ばれるべきなのはユズさんの方。それでも、心が惹かれるのを止めることはできません。しょうがないですよね。恋だもの。
ただでさえ三角関係。そして許されざる恋という難題があるのにも関わらず、そこに降りかかる未来からの干渉。
いいですか。冷静に考えてください。パンストなんですよ。未来からやってきたエージェントが。パンスト。ふざけてるとしか思えないじゃないですか。
でも、そんなパンストたちと主人公が交わす会話の内容は、シリアス一直線なわけです。そしてふと気づけば、クロハへの思いと、パンストたちの未来に思いを馳せ、どんな解決法があるのかと悩んでいる自分がいるのです。摩訶不思議にも程がある。
今まで、これほどまでにパンストと真面目なドラマを繰り広げた主人公がいたでしょうか。
こうやって書いていると茶化しているようですが、読んでいるときはこっちだって、もう本気も本気なんですよ。
だって愛しの妹が、いえ、愛しの女の子が消されちゃうかもしれないのです。こんなに弱くて泣き虫で、でも周りには強がって、みんなのことを考えて身を引くことばかり考えている女の子が。ここで奮起しなくて何が主人公ですか。
ちょっとばかしおばかさんで、間が抜けているかもしれませんが、その点でギンは完璧に主人公でした。自分で決断し、愛し、そして愛する者のために、圧倒的な相手を前にして立ち上がったのですからね。


兄の純粋な想いを前にして、素直になれない妹も、遂に本当の気持ちを明らかにすることができました。
よかった。本当によかった。この想いが報われてくれて、心から嬉しく思います。
もちろん、報われる想いがあれば、その裏には報われなかった想いもあって、そのことを思うと胸が痛むのだけれど、強い彼女たちなら、きっと大丈夫ですよね。信じています。
さりげなく張られていた伏線も見事に回収されて、驚くよりもむしろ笑ってしまいました。ああ、どこまでも私は作者の手の内だったのですね。完敗です。白旗です。お見事でした。
大好きなシリーズが終わるのは淋しくて切ないものですが、読み終わった今、どちらかというと清々しい気持ちでいっぱいです。
ギンとクロハ、ユズさん、アマネコちゃんといったキャラクターたち皆のこの先に、光り輝く未来が見えるから。
ぶっ飛んだ笑いと予想外の感動に溢れた、素敵な物語をありがとうございました。この作品を最初から最後まで読むことができて幸せです。新作も楽しみに待っています。


ああとうとう、「○」の解読をするには至らなかったか……。