まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

ふたりの距離の概算

ふたりの距離の概算 (角川文庫)

ふたりの距離の概算 (角川文庫)

ストーリー
春を迎え、高校2年生となった奉太郎たちの<古典部>に、新入生・大日向友子が仮入部する。
千反田たちともすぐに馴染んだ大日向だが、ある日、謎の言葉を残し、入部はしないと告げる。
奉太郎は、入部締め切り日に開催されたマラソン大会を走りながら、心変わりの真相を推理し始める……。



アニメ『氷菓』が順調に面白くて、今年の流行語大賞が早くも「わたし、気になります!」に決定してしまいそうな今日この頃。
そのアニメイラストと実写との両面カバーで、ようやく待ちに待った文庫版が発売されということで、喜び勇んで手に取りました。いやもう、単行本で買ってもいいかなと思ったんですけどね。せっかく出るならそれまで待とうかなと。
残念ながら書影には映っていないと思いますが、そのアニメイラスト裏カバー。我らが天使チタンダエル(体操服!)の胸部が大変な存在感を放っておりまして、いやはや、清楚な顔してなかなか油断ならないお嬢様だこと!


今回のお話は、奉太郎がマラソン大会で20キロの距離を走りつつ、<古典部>での謎について解き明かしていくというもので、非常にユニークで面白い構成になっています。
奉太郎はひとつずつエピソードを思い出しながら推理を進めていくのですが、そのエピソードそれぞれがまた小さな謎解きのお話になっていて、特殊な形の短編集としても読めますね。
もちろん、各エピソードの中で謎ができて、手がかりが提示されて、エピソードの中で確実に謎が解かれるのですが、全体通しての大きな謎である「大日向が入部しない理由」についての手がかりも、その中に同時に散りばめられていて、通して読むと大きな1本のお話になっているんですね。
全て明かされてから読み返すと思わず膝を打ってしまうような、この見事な伏線回収劇には、もはや唸らされるばかりです。
特に好きなエピソードは二章「友達は祝われなきゃいけない」でしょうか。
謎解きの要素は本当に軽めで、なんてことないお話なんですけれど、奉太郎と千反田のやりとりに、色々と妄想を膨らませられました。
いえ、そっち方面は決して、この作品の主体でないのだろうなとは思うのですが、『遠回りする雛』のあの短編以来、どうしてもその方向に思考が行ってしまうんですよね。里志と伊原もいつの間にやら、いい感じになっているみたいですし。
しかし、奉太郎と千反田のふたりに関しては、これくらいの甘酸っぱい距離感が一番すてきなような気もして、微妙なところです。


ほろ苦い。後味が悪いというわけではないのですけれども、一抹の切なさが残るお話でした。これもまた青春の味というやつですか。
誰も悪くないのになぜかすれ違ってしまうということは、人と人との関わり合いの中では、どうしても起こってしまうものです。
そのままずっと、誰もが目を背けたまま過ぎ去ってしまうことの多い中で、こうやって勘違いを正すことができたのは、彼らにとっては幸運なことだったのかもしれません。この点に関しては、手放しに奉太郎さんを賞賛したいところですね。
さて、次の<古典部>の物語が読めるのはいつのことになるのでしょう? 学年が上がって、少しずつ関係に変化が起き始めた彼らのことが、わたし、気になります
今度は単行本でも迷わず読む予定でいるので、続巻、楽しみに待っています。


なんとなく、私も走りたくなってきてしまいました。20キロ。走れるかなあ。