まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

エスケヱプ・スピヰド 弐

ストーリー
自国の今を知るため、帝都《東京》にやってきた九曜と叶葉。
復興の進む街で、九曜は機械兵を連れた不遜な少女と出逢う。
『第三皇女・鴇子』だと名乗る少女は、九曜に自らを守るように命令するが……。



相変わらず設定や背景描写は重厚でありながら、それを重く感じさせず、ぐいぐいと読ませる力のある作品だと再認識しました。
前回は一度全てが終わった都市で、退廃的な美しさと生きることの厳しさ、そして小さな希望とが絶妙に絡みあっていましたが、今回の舞台は復興の進んだ都市・東京。
尽天に比べれば多すぎるくらいの人、人、人。その人たちの活気の中で、時代を超えて生き残った少女と軍最強の兵器の少年がどのように生きてゆくのかが、大きな焦点のひとつになっていたと思います。
閉鎖環境での明日明後日の生存が問われていた1巻に比べれば、多少緊迫感が薄れたようにも感じられますが、その分ストーリーの枝が格段に広がりましたね。
新たなキャラクターが次々登場し、敵の影も見え始め、これからまた新たなお話として、どんどん盛り上がりを見せていってくれる予感。


鴇子と菊丸の主従がとても良い。九曜とは違って喋ることができない菊丸ですが、このふたりの間に言葉はいらないんじゃないかとさえ思えてきます。
何も口に出さないけれど、愛する主人にいつも付き添って守る。ただ守るだけならそのへんの機械兵にでもできるのかもしれませんが、彼の場合は主人の幸せを真に願っていて、それが鴇子にも分かっているから、そこに確かな絆が生まれているんですね。
主人と従者というだけではなく、大切な友人でもある関係は、叶葉と九曜の主従にもどこか似て、素敵に思えました。
そんな鴇子たちと叶葉たちのやりとりも良かったですね。偉そうに振る舞っていながら、実は何も確かなものがなくて弱い部分のある鴇子ですが、そんな彼女の心をあっさりと解きほぐしてしまったのは、まさに叶葉の人徳というものでしょう。
思えば、九曜をこんなに人間らしくしてしまったのも叶葉でしたし、地味に、一番凄いのは彼女なのかもしれません。


九曜と竜胆の他にも生き残りがいた! ということで、《鬼虫》の剣菱、そして巴がセットで登場しました。
竜胆のことがあったので、よもやまた戦うことになるのかと思いましたが、ふたりはちょっと意外なほどにフレンドリー。
まあ、元々9人しかいない戦友だったのですから、これが普通なんですよね。竜胆が逆に特殊だっただけです。
二刀流の達人・剣菱は、普段は飄々と適当に生きている感じなのに、戦いの場では圧倒的な強さを見せつけ、天才研究者・巴は、誰もをおちょくるような言動ばかり取りながら、その実卓越した知性と情報収集力で敵を翻弄してみせる。
まったく鬼虫というのは、どうしてこうも、誰も彼もがたまらなくアンバランスで、魅力溢れる奴らばっかりなのでしょうか!
剣菱も巴も、かつての九曜を深く知る数少ない人間ですけれども、そんなふたりが、すっかり感情豊かになった九曜を見て笑っているのを見て、こちらまで嬉しく、そして誇らしくなりました。いやあ、何度も言うけど、叶葉さんは偉大だなあ。


もう《蜂》を持たない九曜ですが、それでも守らなければならないものがあります。そして菊丸にも。
大切な人を守り抜くため、それから、つきまとう過去にけじめを付けるため、背中を合わせて共に戦う九曜と菊丸は、本当に格好良かったです。
悲しい事実が明らかになっても、一緒にそれを乗り越えて、前を向いて進んで行ける勇気を持った彼らに、素直な賛辞を贈りたい。
さて、これから先も、《蜂》を失ったままで、九曜たちの戦いは続いてゆきそうです。剣菱のヒントを得て、九曜はどんな剣を身につけていくのでしょうか。そして、順調に縮まりつつあるように見える叶葉との関係やいかに。
鴇子と菊丸、鬼虫たちの今後も大いに気になります。次の巻も楽しみですね。


イラストの九曜がいちいちイケメンすぎて惚れてしまいそう。あの細身の体にアンニュイな表情が乗っかるのはずるい。